「my home town わたしのマチオモイ帖」入り口

マチをオモウ気持ち
「my home town わたしのマチオモイ帖」日本中がマチオモイの春!

2013年2月22日から3月24日まで全国13カ所で開催されている展覧会「my home town わたしのマチオモイ帖」。いろんなクリエイターが、生まれ育った町や学生時代を過ごした町など、個人的な“マチ”に対する“オモイ”を冊子や映像として表現されています。

僕にも思い出深い出来事はいくつかありますが、それらは“誰か”との思い出で、“場所”が思い出の芯に関係しているとは思えません。だから、僕には特別な思い入れのある場所はありません。地元愛なんてものも持ち合わせていないので、場所への想いは皆無です。

でも——あるいは、だからこそ——いくつかの作品は僕の心に響いたし、それらはどれも、僕が知らないマチについて書かれた作品でした。

鶴町帖

“町へのプロポーズ”として作られた『鶴町帖』。作者の町を想う気持ちと、町と作者のルーツを訪ねる構成が絶妙で、読みものとしてかなりおもしろいです。表紙もかっこいい。

『鶴町帖』

八田西町帖

簡単に言葉にしづらいであろう家族の出来事を綴られた『八田西町帖』。町への想いと家族への想いが絶妙な軽さで綴られています。

明るく楽しい出来事では無いのですが、その文体のおかげでさらっと読めてしまいます。町で一緒に過ごした友人や知人、そして家族との繋がりが羨ましくなります。そして最後に、「羨ましいな」「いいな」と感じた人へのメッセージが丁寧に語られています。最近花粉症がひどいせいで、目から何かが滲んで困りました。

『八田西町帖』

ホリエ帖

お子さんへの“フルサト作り”の一環として作られた『ホリエ帖』。この作品は子どもが繰り返し読んでもボロボロにならないように、全ページ布で作られています。すごい。

浅はかな僕はかわいらしい装丁と「ホリエ=堀江」というタイトルにだけ注目し、「かわいい」「お洒落」的な作品だと決めつけ若干斜に構えてページを開いたのですが……母なる優しさというか、暑苦しくない程度に包容されたような優しさが素晴らしいです。この作品を贈られたお子さんが、この作品の優しさを再認識する時のことを思うと、たまらない気持ちになります。

『ホリエ帖』

南春日丘帖

13歳のころに全てを置き去りにした町を想う気持ちが綴られた『南春日丘帖』。本を屋根に見立てた展示方法が素晴らしいのですが、読む前と後でその印象が一変します。

町と家族を想う気持ちが短い文章に込められているのですが、人が成長していく過程で避けて通れない、普遍的な哀しさが書かれているような気がしました。「物語」と言ってしまうと失礼かもしれませんが、僕にとってこの作品は上質の物語を読んだのと同じような心の動きがありました。しんとした気持ちを抱えたまま作品を屋根に戻すと、最初に見た「へぇー」っという感心ではなく、この家への想いみたいなものを想像してしまい、しばらく目を離すことができませんでした。おそらく絶対に花粉症のせいなんですが、不覚にも目からなにかがこぼれ落ちそうになりました。

『南春日丘帖』

マチオモイのススメ

村上春樹が『ニュークリア・エイジ』を初めて読んだ時に「とにかく誰かとこの作品について語りたくなった」そうです。いくつかの「マチオモイ帖」は、僕に同じような気持ちを抱かせてくれました。とにかく、これら作品のことを誰かに伝えたくなったのです。思いのほか知り合いが少なく不完全燃焼になったので、「『マチオモイ帖』オモイブログ」を書いてみました。

この展覧会が各地で開催され、大きな反響を呼んでいるのは、マチオモイ帖公式サイトに書かれているように、3月11日の震災をきっかけに「しっかりと地に足をつけて生きていきたい」と、改めて自分達の根源的な願いに気が付いた人が増えているからなんだと思います。

普段は自分が暮らしてきた町のことをなんとも思っていなくても、「なにか思い入れってあったけ?」と考えることは、忘れてしまっていた小さな出来事や、大切な人を思い出すきっかけになります。思い出したことは楽しい事やつらい事だったりしますが、それは今の自分を見つめ直すきっかけにもなります。そして、「自分もなにかしなければ」と焦らせるのではなく、「自分もなにかできるのでは?」「なにかやってみようかな?」「なにかやりたい気がするなぁ」と穏やかに前向きな気持ちにさせてくれる、素晴らしい展覧会だと思います。

Text by pushman

  • Instagram
  • YouTube
  • RSS