罠猟のおもしろみ
あるいは毎日の見回りについて
狩猟をやってみようと思い、狩猟のことを知りたくて手にとった本は『山賊ダイアリー』と『ぼくは猟師になった』。どちらも狩猟の魅力がよくわかる内容で大変おもしろく、いずれ自分も同じようなことを体験できるんだと想像してワクワクした。だから狩猟免許を取るときは、何も考えず、銃猟だけじゃなく罠猟の免許も取得した。近所に猟場は無く、車も持っていないけれど、罠猟もそのうちできるだろうと思っていた。
ところがもちろん、車無しでは思い描いていた狩猟生活は送れなかった(それでもたくさん楽しいことを体験した)。2期目でようやくカルガモを獲り狩猟を続けられそうだと判断できたので*1、3期目を迎えるまでに散弾銃も所持し、車を購入して、狩猟を通して体験したかったことを体験できるようになってきた。でも、罠猟に挑戦できる状況は作れなかった。
そして4期目。新たに出会った先輩猟師たちのおかげで、僕の狩猟生活は一変した。巻狩りに参加させてもらったり、罠にかかったイノシシ、シカの止め差しを見学させてもらい、念願の皮剥ぎ、解体もさせてもらった。
5期目となる今期は罠の設置をはじめ、罠猟にまつわるエトセトラを体験させてもらい、(ほんのちょっぴり)罠猟に参加させてもらっている。
罠を見回る理由
今まで出会った何人かの先輩罠猟師は、見回りは週に2〜3回すれば十分だと言っていた。「獲れる日は大体わかる」そうだ。聞いた時は、「ほぇ〜……経験を積むとそんなことまでわかるんかいな!」と感心したけれど、くくり罠はトリガーをセットすれば予感が無くても獲れてしまうことがある*2。そこに獣がいたら、なにかが掛かる可能性は0ではない。見回りしていないタイミングで獲物が掛かったら獲物に無用な苦痛を与えることになるし、苦痛は肉の味、質にも影響がありそうな気がする。
だからやっぱり、できるだけおいしいお肉を手に入れるためにも、罠は毎日見回るべきなのだ。
——と考えていたけれど、罠を毎日見回るべき理由は他にもあった。それを知るまでは「土曜日に罠を仕掛け、日曜日の朝に見回り、掛かっていなければ罠を回収する」なんてことも考えていた。同じようなやり方で捕獲している人もいるみたいだし、それはすごいことだと思う。
でも、この方法は大きな欠点がひとつある。罠猟のおもしろさ、醍醐味の大部分が損なわれてしまうのだ。
獲物の動きがわかる理由
罠の設置を手伝わせてもらうため(といっても穴を掘るだけ)、先輩猟師と山を歩いていると、先輩猟師が新しい足跡を見つけて、「昨日の晩に出てきてるなぁ」と呟いた。古い足跡、新しい足跡の違いはそのうちわかるだろうと思っていたけれど、いつの足跡かわかるなんて想像したことがなかった。自分がそんな境地に至るとも思えないので驚愕していたら、「昨日の朝はここには足跡がなかったからね」と、こともなげに一言。
知ってしまえば「そりゃそうだ」という話だけれど、僕は全然全く気がつかなかったので、そのシンプルなカラクリにとても驚いた。そして、うれしくなった。経験やセンスや特別な知識がなくても、毎日見回りをすれば獲物の動きが(ある程度)わかる。そんな当たり前のことを教えてもらったからだ。
罠を設置した後の見回りは、獲物が罠に掛かっていないか確認しているだけだと思っていた。それが一番の目的ではあるけれど、毎日の見回りは獲物の動きの詳細を知る方法でもあったのだ。そうして知見を深めて、より正確に獲物の動きを想像できるようになり、罠猟が、見回りが、よりおもしろくなる。
罠のシブミ
残念ながら先輩猟師の猟場は僕の自宅から遠いので、見回りに同行できるのは週に1〜2回。連日見回りに同行させてもらう機会はあまりないけれど、一度だけ前日は無かった足跡を見つけた。「この足跡は新しいな」と思った瞬間「あ!昨日はなかったぞ!」と違和感に気づけたことがうれしかった。そして、毎日見回りする重要性とおもしろさを実感して、うれしかった。
それ以来、毎日見回りしたくてたまらない。罠の見回りは負担でしかないと考え、なんとか見回らずに罠猟をしようとしていたことが嘘みたいだ。
『ぼくは猟師になった』の著者である千松さんは罠についてこう語っている。
罠はひとつの作品だと思う。
千松信也 – ノーナレ「けもの道 京都いのちの森」より
その作品が上手にできたかどうかは獲物が掛かったかどうかでわかる。
しかも獲物が掛かった瞬間その作品は壊れる。
罠猟のかっこよさというか、渋さを見事に伝えてくれている。もっと言えば、作品が壊れるまでが作品というべきなのかもしれない。しかも作品の完成を見ることはできない……やっぱり罠猟はめちゃくちゃ渋い。
先輩猟師のおかげで自分もその作品作りにほんのちょっぴり参加できるようになったことが、とてもうれしい。
山賊ダイアリー 第1巻
狩猟を始める前は狩猟の楽しい面やわくわく感が伝わり楽しめる。狩猟を始めてからは一つのお手本としても楽しめる。
ぼくは猟師になった
狩猟を日常生活に取り入れたい人、無理なく自然の恵みを活用しながら生活したい人のお手本になると思う。狩猟に興味がなくてもおすすめ。
映画『僕は猟師になった』公式サイト
【インタビュー】裏山で肉を獲る。罠猟がもたらす喜びと自由——千松信也さん/前編
【インタビュー】裏山で肉を獲る。罠猟がもたらす喜びと自由——千松信也さん/後編