エアライフルでヌートリア猟のあれこれと、そのお味
良い肉質と奇妙な匂い

エースハンターを背中に担ぎ、自転車で走り回っていた頃から「獲りたい」「食べてみたい」と思っていた獲物のひとつが、ヌートリア。自転車狩猟時代を含め何度か遭遇したけれど、大抵すぐ逃げられたし、撃つチャンスがあった時はその立派なネズミっぷりにこちらが怯んで撃てなかった。昨年かなりの頻度で遭遇してそのネズミっぷりにも少しは慣れ、ついに今期(7期目)エースハンターで2頭を捕獲し、食べることができた。

畑で食事中のヌートリア
自転車狩猟中に初めて発見したヌートリア。食事に夢中で観察する僕に全く気づかず。でかさにビビって撃てなかった。(8倍の双眼鏡越しにiPhoneで撮影)

ヌートリア捕獲の難易度

何度も逃している僕が言うのもなんだけど、ヌートリアは発見さえできたら鳥類よりは容易に捕獲できると思う。もちろん飛ばれることもないし、逃げ足はそんなに速くない。泳ぎは上手だけど、顔を出している限りは「速い!」と感じない。ただし、潜られると見えなくなるし、顔を出している時より断然速いので、見失わないように注意。油断している時の危機意識はこちらが心配になるレベルで低く、畦道や池のほとりで堂々と昼寝していることもある。そんな時はエースハンターの大きな発砲音でも目を覚まさない(弾は外れた)。

ということで、発見したらまず落ち着いて、的の大きさを信じてしっかり頭を狙えば、たぶんおそらく大丈夫(僕は何度も外したけれど)。

畦道でのんびりしている2頭のヌートリア。スコープは4倍。距離は約20m。50mでゼロインしているのでかなり下に狙いを定めたのに弾は遥か上方に飛んでいった。2頭は大きな発砲音に驚くことなくずっとのんびりし続けていた。(画像はTriggercamからの切り抜き)

捕獲後の止め刺し

哺乳類の止め刺しを経験していない場合、1発で仕留められないとそこそこ苦労すると思う。ヌートリアは通常時なら人に襲いかかったりしないはずだけど、命の危険を感じれば当然威嚇してくる。その姿に恐怖は感じなくても、剥き出された前歯を見ると「あの歯に噛まれたらあかんな……」と直感できる。噛まれたら傷はもちろんバイキンとかヤバそうなので、ヌートリア(に限らず野生鳥獣全般)を舐めてはいけない。

そしてなにより、生きている動物を直接自分の手で命を奪うのは、かなり心にくるしんどい作業になる。僕は2頭目を鉄砲で仕留められず、動けなくなって威嚇してくるヌートリアを棒で殴って気絶させ、ナイフで止め刺しをした。こうしたことに慣れていない場合、止め刺しは獲った喜びを帳消しにしてしまう作業かもしれない。もちろん慣れていても気分が良い作業ではない。獲物のためにも自分のためにも、銃猟は常に1発で仕留めたいと強く思う。少なくとも、その努力はすべきだ。

仕留めたヌートリアから回収した錫製のペレット。左のは1頭目の喉元から回収。柔らかい部位で止まったのか、ほとんど未使用状態に見える。真ん中は2頭目の解体中に出てきたもので、おそらく肋を砕いており少しの凹みと多数の傷がある。右端は2頭目の背骨で止まっていたもの。これがヌートリアを動けなくした弾だと思われる。

皮剥ぎと大バラシ

止め刺し後は人目のない場所に移動して皮を剥いだ。猪のように脂がのっているわけではなく、どちらかといえば鹿に近い。引っ張ればズルっと剥ける。皮を剥いた姿はウサギの肉にそっくりらしい。

身体は小さいので、大バラシも簡単。前足と後ろ足2本ずつと胴体、そして頭にバラす。もちろん初めての哺乳類解体なら苦労すると思うので、作業する場所と時間は慎重に選ぶ必要がある。狩猟対象の動物だとしても、皮剥や内臓を出す作業は知らない人からしたら犯罪的な行為に見えるだろうし、とにかく人目につかない場所で作業した方がいい。

家族の理解があれば、現地で皮剥ぎと内臓出し、そして頭を落とした状態で持って帰り、自宅のお風呂場やお庭、ベランダ(もちろん目隠しをした上で)などで作業できるサイズではある。この方法だと落ち着いてできるし衛生的なのでおすすめ……だけど、死んだ大きなネズミを持って帰ることを許してもらうのはなかなか難しい気がする。

大ばらし前のヌートリア
皮を剥いで頭と尻尾を落とした状態で持ち帰ったヌートリア。ちなみにこのまな板は横600mm縦300mm。合成ゴム製で熱湯消毒もできる優れもの。

肉質とそのお味

僕がヌートリア肉を食べたいと思ったのは、山賊ダイアリーに書かれていたこの感想。

初めてヌートリア肉を食べた岡本くんの食レポ。「自分もこの味を知りたい……」と思わせてくれた。(『山賊ダイアリー』第5巻 P.93より)

独特の旨味、スルメのようなダシのうまさ……は残念ながら感じられなかったけれど、おっかなびっくり口に入れたその肉からは独特の匂いを感じた。おそらくネズミ系の肉の匂いなんだと思う。とはいえ臭いとか不快な匂いではないし、猪肉や鹿肉から感じる“野生”といった風味もない。肉質は良く、とても柔らかい。強いて言えば脂身のない猪肉か豚肉のような食感。そして癖もない。つまり、普通においしい。鹿肉よりも断然日常で使えるお肉だと思う。

ただ、肉に限らず食べ物から知らない匂いを感じとれば、大抵の人は不安になるはず。それが野生の獣でしかもヌートリア、つまり大きなネズミだと思って躊躇してしまう人は、ヌートリア肉をおいしく食べるのは難しい気がする。

ちなみに内臓肉は心臓のみを食べたけれど、鹿や猪と同じく特に癖がないおいしいお肉だった。ただ、身体の割に小さい心臓で、印象としてはカモより少し大きいかなぐらいのサイズで、量は物足りない。

ヌートリアの出汁

率直に言えばおぞましい代物だった。罠猟師の千松さんがヌートリアのテールスープがおいしいと書いていたので楽しみにしていたけれど、ヌートリアの尻尾はネズミの尻尾。1頭目はその見た目に怯んで廃棄してしまった。2頭目は尻尾の皮を剥いでいる途中で齧られた様な傷を複数発見し、またまた気持ち悪く感じて廃棄。でも、出汁をとってみたかったので頭と尻尾以外の骨でスープをとってみた。

ネズミの骨を煮込んでいる、と考えると不安で仕方なかったけれど、猪骨同様に旨味は感じる。でもそれ以上に、肉からも感じた知らない匂いが増強されていたように思う。臭いとは言わないけれど、口に含む前に一瞬躊躇してしまう。ちょうど辛すぎて苦手なインスタントラーメンがあったので、そのラーメンをヌートリアスープで作ってみた。辛味で匂いを誤魔化そうという作戦だったけれど、見事に失敗。旨味はいいとして、匂いと辛さで過去最低の辛ラーメンになってしまった。

ということで、ヌートリアの出汁をもう十分……と思ったけれど、千松さんの記事を読み直すと具材としてネギを使用していた。当然臭み消しの効果もあるだろう。次に尻尾の綺麗な個体が獲れたらテールスープには挑戦してみたいと思う。その際はネギ、そして生姜も使って……などと考えていると、もういいと思ったはずのヌートリアスープが楽しみになってくるから不思議だ。

総評

僕はシカやイノシシを独りで獲ったことがないし、まだしばらくは獲れそうにないので、鹿肉、猪肉は貴重だし、食べる時はちょっと気合いが入る。でも、ヌートリア肉はなんの気負いもせず、「腹減ったし肉食うか」ってな感じで食べることができる。自分一人で獲れたということもあるけれど、なによりクセのない味と良い肉質が、豚肉の代替として大抵の料理に使えると思う。

ヌートリアは出会うために山を歩く必要もない。鳥撃ちのついでに挑戦できる。鹿や猪に比べるとサイズが小さいので、哺乳類の皮剥ぎ、解体の入門に最適な野生動物だと思う。ただ、見た目から受ける印象の割に取れる肉は少ないし、小さいといっても獣の解体は後処理も含めて大変。その労力の割に合うかは微妙なところだけれど、ネズミの肉を食べることに抵抗を感じないなら、獲って食べる価値は十分ある。特にエアライフルのみで狩猟をしている人は哺乳類を捕獲できる機会はあまりないし、是非挑戦してほしい。

ちなみにヌートリアは毛皮が目的で日本に輸入されたそうで、皮の質もいいらしい。いつか鹿や猪の皮鞣しに挑戦したいと思っているので、まずはヌートリアで皮鞣しのあらましを知るのも良さそうだ。

山賊ダイアリー 第5巻

これを読んだら大抵の人はヌートリアを食べたくなると思うんだけど、そうでもないみたいだ。Amazonではヌートリアのぬいぐるみなんかも売っているので、一部の人にはかわいいと思われているのかもしれない。毛皮を使った製品も売ってるけど結構高額なので、やっぱり毛皮の質はいいらしい。

参考記事

ヌートリアの解体: 豆狸の狩猟・採集的生活のススメ

Update:

Text by pushman

  • Instagram
  • YouTube
  • ANGLERS