『南くんの恋人』文庫本表紙

南くんの恋人
倦怠期かなと思ったら

漫画はお風呂で読むのにぴったりだと思う。昨日は『Sudden Fiction ― 超短編小説70』に手を伸ばし、その横に置いてあった『南くんの恋人』をパラパラめくるともう止まらなくなって、お風呂場まで持ち込んでしまった。

理由もわからず小さくなってしまった、南くんの恋人「ちよみ」と、南くんの同棲生活。不便な事だらけでも、すごく幸せそうに見える。南くんは優しい男の子だけど、たまに言わなくてもいいことをといってしまったり、すけべなことを想像したりする。ちよみもわがままを言ったり、やきもちを妬いたりする。つまり、本当に普通の恋人同士。唯一他の恋人達と違うのは、小さくなってしまったちよみの生活を、全て南くんが支えていること。

そういう関係もちょっといいな、と思ってしまう、特殊な状況にある普通の恋人同士の物語。

文庫本で薄いし、話の終わりに盛り上げて次回まで引っ張る、みたいなことをしていないので、区切りもつけられる。ということで何回も読んでいる。となると、お風呂で読むのにぴったりの本である。と思ったけれど、結果は失敗だった。

話のノリは全然重くないのに、相当に切ない。おまけにエロい。つまり、エロ切ない。エロ切ない本というのは、お風呂場で読むのにふさわしくない。頭を洗っていても、心ここにあらず、といった感じで虚空を見つめてしまい、頭がごわごわになってしまう。石鹸やシャンプーをシャワーで洗い流し終わっても、シャワーを止めても、しばらくぼけっとし、湯冷めする——なんて事になるからだ。

それぐらい、「南くんの恋人」は切ない。深く考えさせたり、感動的な漫画はたくさんあるけれど、「切ない」という漫画はそんなに思い当たらない。付き合いが長くなり、「ちょっと倦怠期なのかな」なんて事を感じている人が読むと、相当くるのではないだろうか。なんにも感じなかったら、倦怠期ではなく、別れる時期なのかもしれない。

南くんの恋人

Kindle Unlimited読み放題対象。

Text by pushman

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