スティル・ライフ
好きなんだけど刺さらない

初めて『スティル・ライフ』を読んだ時(多分一年半ぐらい前)、「すごく好きな作品になるな、これは」と思いながら読んでいた。でも、読み終わったらすっと消えてしまった作品だった。そのあと『マシアス・ギリの失脚』も読んだけど、これも同じく、読んでいる間ははまり込むけど、すぐその世界から抜け出してしまう作品だった。

そんなわけで、僕にとって池澤夏樹は一周回って気になる作家となっている。先日改めて「スティル・ライフ」を読み直したところ、冒頭からむちゃくちゃかっこいいし、非現実的なくせに興味深い雑談を随所に盛り込んでいて、30分で読み終わってしまった。
「なんでこんないい作品をおぼえてないんだろう?」と思ったけれど、しばらくするとやっぱりまた読んでいたときの興奮は薄れている。でも今では確実に好きな作品の一つになった。

『スティル・ライフ』文庫本

決して広がりがない作品ではないのですが、すごく完結している感じがするからかもしれません。冒頭の、世界と自分と、自分の世界との関係を説明するくだりからして、すごく完成されていて。突き刺さるんだけれど、そのまますっと抜けていってしまう。どこにも引っ掛からない。
でもぱらぱらとページをめくると、すぐ物語の中に入り込んでしまう。

僕にとって、不思議な作家、作品だ。

スティル・ライフ

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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