まれによくある「単独忍ばれ猟」
想定外の方向からこっそりやってくる幸運
巻狩り(のタツ)は、獲物が目の前に出てくるのをただただじーっと待つだけ……と、思っていた。僕はイラチなので、そんな状況は耐えられないと思い、狩猟を始めても巻狩りをすることはないと思っていた。ところが案外性に合っていたらしく、参加して以来ずっと巻狩りを楽しめている。確かに「じーっと待つ」んだけど、ボケッとしているわけにはいかないし、緊張感を切らさずいろんな事態を想定していると(ほとんど妄想だけど)、時間はあっという間に過ぎていく。
この日の猟場は低くて小さな山。数年前までは猪も多かったらしい。でも、豚熱が流行してからはずいぶん減ってしまい、気配は薄くなっている。久しぶりに見切りをしてみると、猪のものと思わしき痕跡も増えているので、久しぶりにやってみることになった。
それぞれが待ち場に移動しながら、互いに山の状況を報告する。確かに猪の痕跡が多く、期待は高まる。と同時に、ビビる。僕はまだ山で猪に遭遇したことがないので、正直怖い。自分が猪を仕留められるんじゃないかという期待より、仕留め損ねて反撃を喰らう不安の方が俄然強い。「出るとしてもここには来んでええ……」と思いながら、いつもより少し緊張してじっと待つ。
少し風が出てきて周囲がざわつき始めた頃、後方から違和感のある音が聞こえてきた。未だに葉っぱが落ちる音にビクつくけれど、足音を葉っぱが落ちる音と聴き間違えることはもうない(多分)。姿は見えないけれど、確実になにかが歩いている。獲物が来ると想定していた真逆の方向から。
振り向いて観察すると、近づいてくるなにかが視界に入った。立派な角が左から右に動いている。雄鹿だ。普段ならじっとして撃つタイミングを計る状況だけど、猪も気になる。ここは先輩方の意見を伺おうと、最小の声で状況を伝える。
「鹿が後ろから来ました」
「鹿? どっちから」
「後ろです。僕と(先輩猟師)の間」
「猪は出んやろうし獲っといたら?」
残念ながら猪はすでに山からいなくなっていたらしい。少しホッとしながら、撃てる場所を探す。トボトボ歩いていた鹿が木に遮られるタイミングで据銃。鹿の歩調を想像しながら、次に鹿が姿を表すであろう場所をスコープ越しに見つめる。鹿はそのまま下に降りるのか、奥に行ってしまうのか、それとも——
姿を表した鹿は、こちらを向いてピタリと動きを止めた。据銃して自身に銃口を向けている僕を認識したようで、「ん? あれなんや?」といった感じでこちらを見ている。多分おそらく、それが最後の思考になったと思う。銃声が鳴って一瞬の静寂があり、鳥の鳴き声、そして鹿が転げ落ちていく音が聞こえた。
自分が獲物を仕留められるのはいつだってうれしいけれど、今回のような「単独忍ばれ猟」は、ひときわうれしい。犬に追われて獲物が自分の待ち場に廻ってくるのは、ある意味では必然だ。でも、獲物が犬に追われるでもなく、のんびりと自分の待ち場に姿を現すのは、ある意味お互いにとってかなり幸運な偶然だ。その偶然に気がつき、巻狩りでは難しい理想的な捕獲、「余計な“恐怖”と“苦痛”を感じさせず仕留める」ことができたと思う。そんなことで満足するのは勝手な言い分ではあるけれど、それでも。
巻狩りに参加させてもらって4年目。ようやくちょっぴり、タツとして成長していると思えた猟果になった。
記録動画
GoPro HERO9 Black
狩猟中に予期せぬ出会いがあっても写真はまず撮れないので、GoProで録画し続けている。獲物に向けて発砲した場合には振り返りができて便利。特に中らなかった時はその原因を確認できてありがたい。
購入時の価格 ¥63,800