幸運なネックショットで鹿を仕留める
気取られないのには訳がある
狩猟に関する知識を持たず、車も持たず、エースハンターを背中に担いでえっちらおっちら自転車を漕ぎ回って始めた狩猟も、今年で6年目。MSS-20も所持したし、車も所持したし、鳥撃ちだけでなく大物猟にも参加するようになった。
振り返ってみると、鳥撃ちでも大物猟でも、今の知識があったら避けられた失敗は多い。つまりそれだけ、成長したのかもしれない。そうであって欲しい。
前回は走っている鹿に二の矢をかけるも仕留められなかった。GoProで撮影した動画を編集しながら、考えていたことや実行したこと振り返ると、中らなかった理由がよくわかる。鹿に想定外の動きをされ、焦ってしまうのだ。今回は気合を入れつつ平常心でいることを意識して、待ち場に着いた。
尾根を少し下がるとイバラや雑木が密集していて、動物も好んでは歩かなさそうな場所が50m程続く。今回の待ち場はそこを抜けた杉林で、傾斜がそこそこきつい斜面。左右は雑木林で気配の濃い獣道が3本ほどあったので、全てをカバーできる場所を探す。
一番上の獣道のすぐ上がえぐられて、両足の広さ分だけに平らになっている。身を隠すものはないけれど、背後は倒木や雑木がごちゃごちゃしており、自分のシルエットはごまかせそう。大きな木などに身を隠すと鉄砲を自由に動かしにくくなり、焦る要因になる場合がある。今回は獲物が出てくる獣道が多いので、身を隠すより広範囲を観察できて鉄砲を動かしやすい場所を待ち場に決定。
待つこと数十分。一番通ってほしいと思っていた獣道の1本下の道からカサカサと音が聴こえてきて、雑木林の奥から一頭の雌鹿が姿を現した。
ところがやけに体が丸くて黒い。足も短い。「鹿ちゃうの?」と据銃を止めて観察。一瞬「猪!?」と思ったけれど、すぐにそうではないと自分を落ち着かせる。「ほななんや? 犬?」と思ったけれど、犬なら鈴を付けているし、吠えているはず。でも野良犬、野犬、他の猟隊の犬の可能性もあるな……と思ったあたりで首がやけに長いこと気がつき、そうすると一瞬で鹿だと認識。少し混乱したけれど、この観察のおかげで落ち着きを取り戻せた。
鹿はこちらには全く気付いていないようで、犬に追われているはずなのに余裕を持って逃げている。僕は混乱から落ち着きを取り戻したせいか、冷静——というよりも冷酷——に狙いを定め、発砲。直後に鹿は転げ落ち、少し動いてすぐに動かなくなった。狙ったのは首の付け根で、中ったのは首の真ん中あたり。即倒してくれてホッとした。
鹿だと認識できなくなったときはちょっと混乱したけれど、自分が「何かわからんがくらえッ!」と発砲するような人間ではないと確認できてうれしい。情報が不確かになっても冷静に観察を続けられたことも、思い込みで少し混乱したことも、いい経験になった。
今回は隠れず姿を見せていたのに鹿に気づかれなかったことが、かなりうれしい。やはり雑木などでごちゃごちゃした背景は、人間のシルエットの不自然さをごまかしてくれるのかもしれない。自分で考えたことを試して結果を出せたことで、また少し成長できたし、成長していることを実感できた。
——と思っていたのに、この鹿には左目が無かった。僕がいた側、つまりこの鹿にとって左側の視界はほとんど見えなかったはず。「また少し成長したで!」と無邪気に喜んでいた自分が恥ずかしい。射撃や待つ技術を向上させるよりも、調子に乗らない訓練が必要みたいだ。