活版印刷で作ったハガキ

活版印刷ワークショップ
データでは感じられないかっこよさ

ここ数年、物事の進むスピードが半端無く早く感じられて、「ちょっと一回落ち着いていい!?」と言いたくなります。便利になっていくことに若干の苦痛を覚えるなんて贅沢な悩みだと思いますが、それにしても。ところがなにか新しいものが勢いを持って広まると、社会全体がバランスをとろうとするのか、アンチとかカウンター、とにかく主流とは別の方向に向かう動きが生まれます。みんなで同じ事やっててもつまんないですからね、そういう動きは歓迎します。

そんなわけで、次から次に未来が実現されていくここ最近だからこそ、たくさんの古き良きものが再評価されてもいます。その一つに、知り合いのデザイナーさんの名刺や印刷物でよく目にしていた活版印刷があります。

活版印刷はエッジがやわらかくて温かみを感じます。人の存在を感じるといいますか。微妙にへこんだ印刷箇所に触れると、「おぉ……」と軽く感動、感心してから、ニヤリとしてしまいます。そして、「きっと複雑なハンコみたいな方法で印刷しているんだな」って感じで、印刷の基本的な仕組みを想像できてしまいます。その想像が正しいのかを確かめる術がなかったのですが、20011年2月11日〜27日までブリーゼブリーゼで開催されていた「活版エキスポ1」でワークショップが開催されていたので体験してきました。

ワークショップといっても大げさなものではありません。好きな文字を選んだ後は印刷機へのセットまでスタッフの方にお任せ。後は印刷するためのレバーを引いて加圧するだけです……が、この加圧加減が重要で、強すぎると紙がよれてしまいますし、弱いといい感じに凹みません。一回練習させてくれるのですが、この時は強すぎて印刷部分が相当凹んでしまいました。幸い本番ではいい感じで加圧でき、スタッフの方に褒められました。いくつになっても褒められるのは嬉しいものですね。

活字と印刷物
上の金属片が活字。下が活字で印刷したハガキ。紙にはある程度厚みがあった方が活字の良さを感じやすい。

ハンコほど単純ではありませんでしたが、想像と大きく違うわけでも無い印刷機は、いかにも機械といったたたずまいで、故障しても頑張れば自力で直せそうな気がします。活字にインクをつける仕組みはシンプルで(そう見えただけかもしれませんが)、「うまいことできてんなぁ……」と唸ってしまいました。その動きには「人が作っている」という確かな実感があります。

年配のスタッフの方にいろいろお話を伺いましたが、とても丁寧に説明してくれて勉強になりました。そして、自分の仕事と技術が再び必要とされる場所が見つかって、とても嬉しそうでした。僕のくだらない質問にも笑顔で丁寧に答えてくれました。こういう事があると、無理矢理にでも仕事をお願いしたくなります。

写真を確認していて思いましたが、これはやはり「触ってなんぼ」です。なんでもかんでもデータ化されていく時代ですが、「手に取ってみないと味わえない感覚」っていいです。魅力的です。僕の仕事の成果物は手に取ることができないものなので、ちょっと羨ましくなりました。

大人の科学マガジン BESTSELECTION07 小さな活版印刷機

活版印刷機まで買えてしまう未来になったんですねぇ……。

Update:

Text by pushman

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