マウス
インタビューとセットで
副題が「アウシュビッツを生きのびた父親の物語」とあるように、作者の父親が体験した第二次世界大戦を描いた物語です。息子である作者が父親にインタビューして、アウシュビッツで起きたことや、父親の生きてきた道のりを聞き出すのですが、そのインタビュー自体も物語として取り入れ、第二次世界大戦と現代を平行に描き、父と息子の関係も浮き彫りにしていきます。
この物語を読むときは予定を終わらせてからにしましょう。気持ちが大変ざわつくので、気持ちの切り替えがうまくできなくなる可能性があります。大昔のお話のようで、たった50〜60年前の話であることを改めて認識すると、なぜ自分がこの時代に生まれたのか? なんてことを考えてしまいました。恵まれた環境に生きているからといって、妙な義務感は持ちたくありませんが、それでも最近の様々な事件に自分が巻き込まれなかったり、直接関わっていないことは感謝すべきことですし、その運を大切にする努力は怠ってはいけないな、と思いました。
柴田元幸さんによる作者アート・スピーゲルマンへのインタビューが掲載されている『ナイン・インタビューズ』と一緒に読むと、より深く楽しめると思います。インタビューでは同じ時代背景の映画、「ライフ・イズ・ビューティフル」を引き合いに、実際にあった出来事を物語として置き換えることと、物語を創るときに実際にあった出来事を利用することは違う、という興味深い言及があります。また、柴田さんの学生さん達が、『マウス』を読んで感じる「自分はこの物語に感動する資格があるのか?」という疑念に対するスピーゲルマンの回答も必読です。
そんなわけで、この物語に興味を持った方は、ぜひ『マウス』とともに『ナイン・インタビューズ』も読んで欲しいです。どっちか片方だけの人も、両方読む相乗効果でより深く味わえますよ。