ストリート・キッズ
「守りたい」と思う気持ちと実行力

「淫売の私生児」ことニール・ケアリーの物語。「盟友会」の一員である、ジョー・グレアムに探偵稼業のイロハをたたき込まれたニールですが、現在は立派な大学生。彼女ともうまく付き合い、それなりにうまく生活していたところにグレアムから仕事の連絡。内容は副大統領候補の娘、アリーの捜索。

探偵として成長していく回想シーンと、この事件のややこしい人間関係から、人として、男として少しずつ成長していく対比がほんとに素晴らしくおもしろいです。

初めて読んだのは2年ぐらい前。僕はミステリーにあまり興味がなかったし、表紙もなんだか受け付けず、手にしてから読み始めるまでに結構時間がかかったのを覚えています。しかし、プロローグを読み終わる頃には、会話のリズムと絶妙なやりとりにものすごい勢いで引き込まれていきました。もし学生の頃にこの物語を読んでいたら、僕の将来の夢リストのかなり上位に「探偵」という二文字が並んでしたことでしょう。いや、そのまえに「凄腕のスリ」にならないと……なんてぐあいに妄想を続けていたことは間違いないです。

『ストリート・キッズ』文庫本

この物語にいろいろな魅力がありますが、最大の魅力はニールとアリーの切ない物語です。ニールがアリーに対してどう行動し、どういう感情をもつのか自分で想像するのですが、物語はどんどんその方向に進みます。しかし、その道は行ってはいけない道なんですよね……。僕なら絶対そっちをとってしまうような気がしますが、ニールはプロの探偵として、ギリギリの線を守るために自分の感情を殺していきます。ニールはこうして着実に成長していくのですが、その成長がかっこよくもあり、哀しくもある、なんとも切ない物語です。この後に続く『仏陀の鏡への道』『高く孤独な道を行け』でもニールは成長していきますが、切なさではニールがまだ学生時代のこの物語が一番です。
もうひとつは文体。探偵モノなのでけっこう切羽詰まったシーンは多いんですが、その描き方が大好きです。力が抜けていて、ニヤリとさせたいがためだけにスリリングなシーンを用意しているのではないかと思うほどです。徳に待ち伏せや殴り合いをするときの心理描写が最高です。

ドン・ウィンズロウはミステリーとしての仕掛けがどうというよりも、人物描写、心理描写がもう抜群にうまいんですよね。さしておもしろくない話でも、興味深い、おもしろい話に変えてしまう人です。人間や物事の本質をしっかり見ようとしているから、真剣さの中の滑稽さがわかる人たちなんだと思います。突飛な設定や状況を考え出すのもすごい才能だと思いますが、僕はどちらかというと、普通の日常をおもしろくできる人に畏怖の念を抱きます。

ニールとアリーの物語は、誰かを守ったり、誰かに守られたりしていることが、ほんとうに素晴らしいことなんだということが、じわーっと染み入ります。自己犠牲の精神とかそんな大げさなことではなく、「誰かを守りたい」と思うことがとても大事なんだなと。自分がそう思ったときに、実行できる力を持っておくことが「責任をとれる」ということなんでしょうね。なんてことを、男の子は何かにつけ考えていたりします。マイッタマイッタ……。

ストリート・キッズ

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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