ビフォア・サンライズ(恋人までの距離)
特別なことは起こらない特別な一日
『ビフォア・サンセット』を観に行く前に、前作『恋人までの距離』を観直しました。5〜6年前に1回観たきりでしたが、自分でも驚くほどその内容と会話、映像を覚えていました。
初めて観たときは何の情報もなかったので、延々と続く二人の会話に聴き入って気がつくと30分経過。「あれ? このままずっと二人だけの映画?!」と気付いて、その時点で衝撃を受けるほど退屈させない内容でした。
出会いのきっかけとそこから始まる会話がとてもリアルで、惚れっぽい人ならイーサン・ホークの高揚感が手に取るようにわかるはずです。僕は我が事のように高揚感を感じながら観ていました。途中で少し言い争いというか、意見の相違があったりするのですが、そういう「ちょっとまずいな」という気配を察知し、雰囲気を改善していく二人がまた素敵なんです。嫌味がなくてスマート。
ほんとに素晴らしいシーンだらけなのですが、出会って一緒に電車を降りるまでが特に素晴らしい。
二人は目的地が違うので一旦別れることになるのですが、イーサン・ホークはもっと一緒にいたいので戻って一緒に電車を降りようと提案します。そりゃそうです。ジュリー・デルピーですからね。頑張って当然です。ややロマンチックに過ぎる、後から思い出したら顔まっかっかになるようなセリフで口説き落としますが、こういうのをバカにしないでいただけると、男としてはありがたいと心底思います。いや、バカにしてもいいんですけど、それは後にして、一旦は乗っかって欲しい。おそらく素敵な女性はそうしてくれるものだと信じています。……でも、やっぱりイーサン・ホークがやるから様になるんでしょうねぇ。
もちろん会話だけでなく演技も素晴らしい。あまりに自然にはにかんだり手を繋いだりするので思わず微笑んでしまい、こちらも幸福感に包まれることになります。もちろん二人が感じているであろう幸福感には到底敵いませんが。
この物語は限られた時間で誠実に、丁寧に会話を紡いで、お互いを理解したいと願った二人の物語です。事件に巻き込まれて言い争いしながら解決し、最後は結ばれてハッピーエンド、なんて物語ではありません。何か劇的なことが起こらなくても人は理解し合えるし、理由を説明できなくても人を好きになるんです。そんな当たり前ことを思い出させてくれて、大切な人と会いたくなる、改めて大切にしようと思える、素敵で幸福な素晴らしい物語です。人恋しくなるので、まだ対象となる人と出会えていない人は、覚悟して観ましょう。
ビフォア・サンライズ
めちゃくちゃ会いたいのに場所と日時の約束しかしないってところがロマンチックエンジン全開で、すてきだなと思います。