6期目の猟期解禁と、うれしい猟果
2年前の失敗から学んで獲った1頭

「自分で獲った鹿の肉を食べたい」と思って始めた狩猟も今年で6年目。自分で殺した動物を食べられるのか不安だったけれど、ほとんどの獲物をおいしくいただいている。
とはいえ自分一人の力で手に入れたお肉は数羽のカモと、1羽のキジバトのみ。ほとんどのお肉は2年前から参加している巻狩のおかげだ。猟隊の皆さんには狩猟に限らずいろんなことを教わり、楽しませてもらい、充実した狩猟採集生活を送らせてもらっている。

巻狩ではいつも良い待ち場に行かせてもらっているので、獲物との遭遇率はとても高い。でも、仕留められなかった記憶の方が圧倒的に多い。それらの記憶の中で強烈な印象に残ったものに、三段角の雄鹿がいる。

その日も気配の濃い待ち場で大きな木に隠れて待っていた。鹿の駆けるような音が聞こえてきたので、木に身体を隠したまま首を少し後ろに傾げて音が聞こえた方を見ると、雄鹿がこちらに走ってくる。それなりの速度で気がつけばもう10mぐらいの距離。そして、大きい。距離の近さとその体躯に驚いて、鉄砲を構えることもできず「おわっ!」と声が出た。雄鹿もこちらに気がついて驚いたようにジャンプしながら身を翻し、谷をジグザグに跳ね下っていく。狼狽しながら鉄砲を構えたけれど、スコープの中に捉えることすらできなかった。

今期最初に指示された待ち場は、その大きな雄鹿と遭遇した場所。少し環境は変わっているけれど、通ってくる可能性の高い道は多分おそらく、同じ道。その道を安全に狙えつつ、走ってくる獲物からは隠れられる場所を選び、足元を整地して、射線を確保し、じっと待つ。

待ち場
思い出深い待ち場。正面左の獣道と右下の奥にある獣道がよく使われる。実際に待っている時は緑の葉っぱに隠れるように画像の右側で待っている。三段の雄鹿も、今回の雌鹿も、左の道を駆けてきた。

枯れ葉が落ちてくる音にビクつきながら1時間半ほど待った頃、場所を移動するように指示が入る。速やかに下山して連絡を入れようとした時、さっきまで居た待ち場を通る可能性が出てきたので戻るように指示が入る。
それなりの急勾配をほぼ直登するので、降りた直後に登るのはわりとしんどい。はっきり言って、かなりしんどい。おまけに気が急いているので余計疲れる。そしてなにより、今日は今期の狩猟初日。気持ちに身体がついてこない。

最初の場所に戻って状況確認……の前に、まずは息を整え……たいけれども、精一杯平常な呼吸をしているふりをしながら待ち場に復帰したことを伝える。息を整えていると、獣が山を駆ける音が久しぶりに聴こえてきた。さっきまでビクついていた枯れ葉の落ちる音とは全然違う。「も……ちょと……待って……」と思ったけれど、不思議と呼吸は整い気持ちも落ち着いていた。

身を隠していた雑木から少し顔を出すと雌鹿が駆けてきて、こちらの気配を察したらしくその場で止まった。距離は15mほど。雌鹿の顔を見ながら据銃。レティクルの中央には雌鹿の顔。すぐさま引き金を引こうとしたけれど、雌鹿の目線をまともに感じて——というか雌鹿と目が合って——怯む。

でも、狙いはしっかりと雌鹿の顔に向けたままだ。それを確認した瞬間に、引き金を引いた。直後に雌鹿は崩れ落ち、15mほど斜面を転がっていった。後を追いながら状態を確認すると、まだ生きているので止め刺しを急ぐ。まともに顔に中っておりかなり残酷な状態。「申し訳ない」「かわいそう」「早く楽に」なんて気持ちが、鹿を獲れた喜びと共に湧いてくる。猟果を得たときのこの複雑な気持ちを久しぶりに感じて、狩猟期間が始まったんだなと実感した。

鹿を待っている立場なのに鹿の出現に驚き、なにもできなかった2年前。今年は同じ場所で、同じような状況で冷静に対処できたので、格別にうれしい。何度も鹿に遭遇して、鹿を狙って撃った経験を重ね、静的射撃とクレー射撃を練習して、ある程度の自信を持って引き金を引けるようになった結果だと思う。

「獲物と目が合うと撃てない」という話は聞いたことがあったし、そりゃそうだろうと思っていた。でも、僕はそういうことをあまり気にしないタイプの人間だったようだ。狩猟を始める前に心配していたことはなんだったのか。経験しないとわからない事とはいえ、あまりの掌返しに自分でも驚いている。

獲れた雌鹿は1日吊るしてみんなで解体、精肉をして、真空パックにして冷凍した。昨年何度も精肉したからか、これらの作業を(手際は良くないけれど)淡々とこなしている自分に気がついて、自分(と仲間)で肉を手に入れる生活が日常の一部になってきたのかと思うと、とてもうれしい。
翌日に楽しみにしていたハツ(心臓)にマキシマムをまぶして焼いて、レモンを絞って食べた。久しぶりのハツを噛み締めた時、この雌鹿を撃つ前後に見た光景や感じたことが頭をよぎった。「自分で殺した鹿の心臓を喰ってんねんなぁ」と思うと、他では経験し得ない感情が湧いてくる。それは食欲を減退させるようなものではなくて、より旨味が身体に沁み入るきっかけだった。

鹿の背ロースで作ったローストベニソン
ハツの写真は撮り忘れたので、後日作ったローストベニソン。とてもおいしかった。

マキシマム

狩猟ではおいしくない肉も手に入る可能性がある。このスパイスはおいしいお肉はもちろん、おいしくないお肉も大抵おいしくしてくれるので、必須の調味料だ。

フードシールド 業務用真空パック器 JP290

狩猟で肉を得るつもりなら真空パック器はほぼ必須の道具。Amazonで1万円前後の専用袋が必要な真空パック器は2シーズンで故障したので、専用袋が不要なこちらを購入。きれいに真空パックできるし、なにより薄すぎなければ大抵の袋で真空パックできるのが素晴らしい。公式YouTubeでいろんな使用方法を公開してくれているのもありがたい。公式サイトから買うのがお得。

購入時の価格 ¥15,980

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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