手負いの雄鹿と対峙して怖気付く
止め刺しの技術力不足を痛感

今回の待ち場は昨年若い一本角の雄鹿を獲った鞍部。「ここしかないやろ」と思える獣道がひとつあるので、今年もその道を狙う。良い待ち場を見つけたので足場を整地して、正面に鹿が来るのは待つ……はずが、すでに7〜8頭の鹿が正面をぞろぞろと歩いている。さっき犬を入れると連絡があったばかりなので、鹿は犬に追われる前に何かを察して逃げてきたわけだ。

距離は鞍部を挟んで30m程度。立派な角を持ったリーダー的な雄鹿が目立つ。群れを統率しているようにも見える。全体的に慌てている様子はない。リーダーがどこに移動しようか思案していて、他の鹿は指示を待っているように見える。こんな風に群れの雰囲気を観察できる程度の時間——おそらく5秒ぐらい——僕は「なんでおんの?」と頭の中をハテナマークでいっぱいにしながら、来たるべき鹿を撃つための準備中の中途半端な姿勢で固まっていた。

待ち場からの景色
中央より少し上方に雄鹿がいて、周辺に6〜7頭がいた。実際の待ち場はもう少し手前。

今にも気づかれそうなので、最初にはっきりと視認したリーダー格の雄鹿を狙う。できるだけ音は出したくないし、二の矢をかけるチャンスはないと判断して、弾倉は空のまま薬室にだけ弾を入れる。そーっと据銃して狙いを定める——視界が黄色い。まだスコープカバーも外していなかった。焦る気持ちを落ち着かせながらゆっくりスコープカバーを外し、再度狙いを定める。

雄鹿の身体は木に隠れて、左を向いた頭だけが出ている。中てる自信はあるけれど慢心にも思えたし、焦っている気もしたので、落ち着くためにも首が見えたら撃つことに決めた。ゆっくりと左に進む雄鹿の首が徐々に見えてくる。首の中央に狙いを定め、付け根まで見えた瞬間に引き金を引く。雄鹿は倒れて転がり、すぐ下の木にぶつかって止まった。

中ったことにホッとすると同時に、GoProの録画スイッチを押せていないことに気づく。とにかく気がついたら鹿が居たので、ありとあらゆる準備ができていなかった。「今更なぁ……」と思いながら、止め刺しの記録もしておこうと録画を開始した。

倒れている雄鹿
最初に見た光景。身体を動かすことがかなり困難な状態になっているけれど、息遣いや気配からは力強さが感じられた。(GoProの動画から切り抜き)

倒れた雄鹿から距離をとって観察すると、最初の印象よりも大きい。角も立派だ。即倒させられて良かったと安堵しながら近づく。まだ息はあるようで……というか、鳴き声も出さずなんとかしようともがく姿からは、まだ力を絞り出せるような印象を受ける。
念の為に止め矢を撃った方がいいかな……と考えていると、もぞもぞしていた牡鹿の身体が少し滑り、その勢いで立ち上がりそうな体勢になった。その動きにめちゃくちゃビビって、「これはあかん」と止め矢を撃つことを決意。

起き上がりそうな雄鹿
最初の場所から滑って木に当たって止まり、今にも立ち上がりそうな体勢になったので、慌てて後ずさっている。(GoProの動画から切り抜き)

バックストップを取れる位置に移動している間に、雄鹿は左半身を下にして横たわっていた。頭を上から狙うような感じで脳天を撃つと、ピタリと動きが止まった。「早く血抜きを……」と思って近づくと呻きだして、再びビビる。止め矢は角に直撃して脳震盪を起こしただけだったようだ(後になってわかった)。仰向けになっていたので頸動脈を狙ってナイフで切り裂く。周囲に響く鳴き声。勢いよく出血しているけれど、それでもまだ息絶えない。もう一度、今度はより深く、切り裂く。鳴き声。身体を大きく捩り、雄鹿が驚いたように大きく目を見開いて僕を見上げる。しばらくしてゆっくり目を閉じ、また見開き、何度か深く大きな呼吸を繰り返し、やがて息絶えた。

雄鹿への止め矢
引き金を引く直前。角と角の間を狙い、下の角に直撃した。首がだらんと下がったので仕留めたと思ったんだけど……(GoProの動画から切り抜き)

最初の一発は首の付け根より少し上に着弾し、右の背中、右足の上に抜けていた。真横を向いたと思っていたけれど、斜め45度ぐらいの角度で降りながら左に移動していたのだろう。身体を動かせなくなる箇所には中っていたけれど、すぐに絶命する箇所ではなかったようだ。首を狙うにしてももっと頭に近い場所の方が即死させられる可能性は高いのかもしれない。

罠猟に同行して鹿、猪を電気槍や鉄棒で気絶させてから止め刺しをしたことは何度かある。いつ目覚めるか怖かったけれど、先輩猟師がそばに居るので安心感があった。
今回は一人ということもあって、いつも以上に「向かってくるかも」という恐怖感を感じた止め刺しだった。今思えば最初の止め矢に失敗していると気づいた時点で、もう一発止め矢を撃つべきだった。一度失敗したことで、再度の止め矢が選択肢から無くなっていた。ナイフで速やかに止め刺しできる技量もなかった。経験を積まないと身につかないとは思っているけれど、苦しみを長引かせたことが、命を奪ったことよりも、強く引っかかっている。

折れた鹿の角
止め刺しの血を浴びた立派な角。

これまで鉄砲で仕留めた鹿は雄が1頭、雌が5頭。全て鉄砲のみでほぼ息絶えた状態になっていたので、血抜きに危険を感じたことはなかった。これらの鹿は、誰に殺されたのか認識しないで死んでいったと思う。7頭目になったこの雄鹿は、大きな声で呻きながら睨みつけるような角度で僕に目線を向けて、「俺を殺しているのはお前なんだな」と確認しながら死んでいったような気がした。
やりたいことや学びたい技術はまだまだたくさんあるけれど、なによりも確実に一発で止め刺しする技術を身につけたいと強く思った。苦しんでいる獲物と、僕自身のためにも。

GoPro HERO9 Black

狩猟中に予期せぬ出会いがあっても写真はまず撮れないので、GoProで録画し続けている。獲物に向けて発砲した場合には振り返りができて便利。特に中らなかった時はその原因を確認できてありがたい。

購入時の価格 ¥63,800

Anker PowerCore 10000 PD Redux

GoPro純正バッテリーでは1時間前後しか持たないので、長時間撮影する時はこれを接続している。面ファスナーを貼り付けてヘッドマウントに固定しているけれど、200gを切っているのでそれほど気にならない(邪魔ではある)。

購入時の価格 ¥3,439

GoPro対応ヘッドマウント

色々なマウントを使ったけれど、狩猟の雰囲気を記録するなら一番マシだと思う。銃に取り付けるタイプは持ち運びに気を使うし、全体の雰囲気が伝わりにくい。

購入時の価格 ¥792

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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