ポートレイト・イン・ジャズ
文章とイラストで聴く音楽

最近くいだおれ太郎楽団の「Rose Room」ばかり聴いているんですが、この曲で最も有名な演奏はベニー・グッドマンとチャーリー・クリスチャンによるものらしいです。

確かに無茶苦茶気持ちがいいです。かっこいい。というわけで、先日「チャーリー・クリスチャン」のCDを聴いていたのですが、ふと村上春樹と和田誠による大人のための素晴らしい絵本、『ポートレイト・イン・ジャズ』にチャーリー・クリスチャンも載っていた事を思い出してしまい、仕事を忘れて本棚の前にしゃがみ込んで読み耽ってしまいました。

ポートレイト・イン・ジャズ

この本は一人を4ページで紹介しているのですが、そのうち1ページは和田誠によるイラスト。もう1ページは村上春樹が所有しているレコードジャケットと音楽家のプロフィール。残りの2ページ(1300文字前後)で村上春樹がその音楽家についてのエッセイを書いています。

もう10年以上前に出版された本ですが、その頃は「ジャズ」というものになんとなく憧れてました。言葉の響きもかっこいいし。そんなわけで、春樹作品に登場する曲や映画のサントラなどを聴き、心地よくなってはいたのですが、のめり込む、という感じはありませんでした。なのでこの本で紹介されているほとんどの音楽家は、名前を知っていてもどんな音楽家なのかさっぱりわかりませんでした。それでも、村上春樹の音楽家と音楽に対する愛や尊敬から生まれた「この素晴らしさを伝えよう」という文章にはのめり込み、何度も読み返しました。

何故その頃にこの本で興味を持った人たちの音楽を聴かなかったのかわかりませんが、物事にはやはりタイミングってものがあるみたいです。10年経ち、楽器なんて興味が無かった僕が突如ウクレレを購入し、楽器教室に通い、iPodは古き良き時代の音楽で一杯になりました。そして今この本を読み返すと、当時から気に入っていた文章の人たちの音楽を大好きになっている事に驚きます。人はなにかをきっかけに大胆に変わることはありますが、好きなものの芯はそんなに変わらないんでしょうね。

その中でもっとも好きな文章だったのが「ビックス・バイダーベック」です。これは文章だけでなくイラストも印象に残っていて、ほんとになぜ当時聴こうとしなかったのか不思議でたまりません。村上春樹おすすめの1曲は「Singin’ the Blues」。僕がこの曲を知ったのは「Sweet Hollywaiians」からなのですが、まあほんとに素晴らしい曲です。あまりこんなこと書きたくはないのですが、精神的になんか疲れたな……って時に聴くと、いつでも気持ちを楽にしてくれます。

そして最近「Jitterbug Waltz」という曲をむちゃくちゃ好きになったのですが、ちゃんとこの本にはファッツ・ウォーラーが紹介されていて、おすすめの曲は「Jitterbug Waltz」なんですね。おまけにこの曲を知ったのはまたもや「Sweet Hollywaiians」。もう僕の音楽人生には、春樹さんとHollywaiiansが勧める曲だけで十分な気がしてきました(笑)。春樹さんの感想がまた素晴らしいというか、僕が漠然と感じていたことを的確に表現してくれています。

この曲を聴いていると、昔どこかで見た懐かしい光景が、心の奥のほうにふらりと甦ってくるような気がする。そののんびりとしたメロディーは、たとえば子供時代に起こったなにかの記憶を呼び起こすようにも感じられる。

ポートレイト・イン・ジャズ

こんな風に「我が意を得たり」的な文章と出会う事はとても嬉しいものです。そして、シンプルな言葉で難しいこと表現するってほんとにかっこいいと思います。この本にはこうしたシンプルな言葉やエピソードがさらっと書かれていて、どこから読んでも結局全てのページをめくることになってしまいます。

この本と連動したコンピレーションCDも出ているのですが、それに寄せられた春樹さんの「ジャズという音楽」についてのエッセイが素晴らしいんです。多分このCDでしか読めないと思います(『村上春樹 雑文集』で読めるようになりました)。これだけでも買う価値がある、とても素敵な文章です。ちなみにこのCDを聴きながら読む場合、文庫本ではなく単行本サイズがおすすめです。単行本に書き下ろしを追加したお得な文庫版も出版されていますが、当然イラストは小さいので。単行本はゆったりと読む、眺めるにはちょうどいい大きさです。

この本をパラパラめくっていると、いつでも身体が少し軽くなって穏やかな気持ちになれます。心身ともに影響を与える文章や音楽って、なんなんでしょうね。ほんとにすごいと思います。電子書籍もいいですが、こういう本は実際に手にもって楽しみたいなと心底思います。

2010年06月28日(月)

読書 /

Text by pushman