月光の囁き
自力で見つけた神様

数年前、僕をどん底から救ってくれた漫画があります。えーと、変態漫画『月光の囁き』です。変態漫画というと、読んだ人は必ず「それだけではないだろう」と言うと思います。僕もそう思います。確かに変態漫画ではありますが、極端に純粋な恋愛を、極端に突き詰めた物語でもあります。どんな種類の変態かというとSMです。専門の方から異論があるかも知れませんが、まあ大きなくくりとしてはSMでしょう。もちろん拓也がMで、紗月はS。この物語を読むと「愛を究極まで突き詰めると、やっぱSMだな」と思うようになります。

主人公は中学生の日高拓也と北原紗月。ずっと紗月に憧れを抱いていた拓也は、紗月を思うあまり紗月の身に付けているものを収集してしまう。そんな秘密を抱えながら、拓也と紗月は剣道部の朝練を繰り返すうちに距離を縮め、二人は付き合うことに。しかし、拓也の秘密は隠し通せるものではなく、拓也の秘密を知った紗月は当然困惑し、拒絶します。秘密を知られた拓也は楽になると同時に紗月への忠誠心を強め、紗月はさらに混乱することに……

こんな感じの物語で、しかもここまでの展開が速い。最初の純情恋愛路線はあっという間に終わり、そこからずーっと変態純愛物語となります。

この物語は映画化されているのですが、まだ読んでいない人は、特にSM的、変態的な行為が苦手な人は、映画から入った方が安全かなと思います。漫画はちょっと表現が過激ですので。映画は原作を壊さず見事に改変されているので、物語の芯を失わず、より間口が広い物語になっていると思います。

変態変態と書いていますが、この物語の芯の部分は恋愛のかたちです。ある事件から紗月を命がけで救った拓也が言います。

俺は紗月を守る。
世界中の誰からも、
たとえ死んでも、
世界中を敵に回しても、
……こうやって二人だけの時に、
守ってもらいたいけん。

『月光の囁き』第2巻

女の人はこの発言をどう捉えるのでしょうか。愛の告白として「俺はお前を守る!」だけならわかりますが、「そしてお前に守ってほしい!」なんて言われても困りますよね。でも、僕はとても素直な気持ちだなと感じました。そんな困った告白をされてしまった紗月は、混乱して激しく拓也を攻めます。それでも拓也は引かず、ただ一言「神様が間違えたんや」と、自分の思いや行いは自分でも止められないことを告げます。潔し、拓也。「開き直ってるだけじゃん!」と思うかもしれませんが、そんなことは無いのです。本当なんです。神様が間違えたんです。こういう恋愛もあるのです。

紗月から拒絶されながら、紗月を見守り続ける拓也。紗月もそれを許容し始め、自分でも意識せず離れたはずの拓也との距離を、ゆっくりと詰めていきます。紗月の彼氏である二人の先輩は、二人のそんな関係に気がつき混乱します。そして拓也を問い詰めます。

男:
お前は紗月のなんなんや。

拓也:
それは、紗月だけが知っとってくれたらええことです。

『月光の囁き』第3巻

この力強い答えが、どん底にいた僕を一気に引き上げてくれた言葉です。今でも誰かの言葉に傷ついたりウジウジ思い悩んだりすることはありますが、この言葉を思い出すと心の体勢を持ち直せます。自分が大切に思う人が、自分のことをわかっていてくれたら、それでもう十分じゃないかと。そんな人と出会えたら、自分の好きな物事が人から見るとちょっと変わっていたり、変態と言われる性的嗜好を持っていたとしても、自分を曲げずに生きていける気がします。

物語の終盤、拓也と紗月が見せる二人の世界と絆の強さは、ちょっと想像を超えていましたが、誰かに迷惑をかけているわけではなさそうですし(懲らしめられている人はいる気がしますが……)、二人とも大変幸せそうです。やってる行為は大変変態的に思えますが、とてもあたたかい気持ちになりました。変態純愛物語として、正しいハッピーエンドだと思います。

変態だって別にいいじゃない

「ジユウ ニ ナリタイ」斉藤和義

2004年07月31日(土)

読書

Text by pushman