壊色
町田康の原点
とても親切な方から『壊色』を頂きました。しかも1993年出版の初版です。と思ったら文庫判より内容が少ないのですね。でも、豪華だからいいです。負け惜しみではなく。
町田康=町田町蔵が『きれぎれ』でなにかの賞を受賞して広く有名になる前の本です。「第1章 天丼ゆうてる」「第2章 うどん玉・バカンス・うどん」は短編小説っぽい。「第3章 また時間どおりに来やがらぬ」はエッセイと言うか、日記? 町田康公式サイトの日記に近いです。「第4章 『唱歌注解』全アジアの女性たちよ」は童謡などの歌詞を勝手に読み替え、ちょっとしたお話を創作しています。
僕は常々「電車で町田康の本は読んではいけない。なぜなら笑いをこらえるのは相当な努力を必要とし、その努力は報われないから」と書いています。今回自分でその警告を無視した結果、僕を見て笑っている人と目が合い、それでもにやついてしまうという、とても恥ずかしく悔しい経験をしてしまいました。
11年前の本なので、今の町田康から比べると相当荒いのですが、そのリズム感、空気感は変わっていません。文体に関してもほとんど変わりありませんが、まだこの頃の方が読みやすいかも。ただ、内容自体が混濁していて、そういう意味では読みにくい。本当に意味のわからないものも少なくありません。
でも、町田康としてのデビュー作『くっすん大黒』をはじめ、その後の作品に通ずるテーマや表現(はら振り、ガラスのバリ取りなど)がちりばめられていて、この作品を精製していって物語を創っていく事になったのかなぁ、などと想像してしまいました。
個人的には第1章、第2章の短編よりも、第3章の日記と第4章の歌の読み替えが好きです。特に、第4章の「うさぎのだんす」「もりのおんがくか」はやばかったです。電車内で恥ずかしげもなく満面の笑みをたたえてしまったのは、この2作品のおかげです。