MONSTER
負けない人間との戦い

最近歯磨きをしながら『MONSTER』を読み直していたのですが、休みに入ったので一気に読破してしまいました。通して読み直したのはおそらく3回目ぐらいだと思うのですが、よく友人と話したり、まだ読んでない人を見つけると相当な熱意を持っておすすめしていたので、重要な部分は結構覚えていました。でも、人にすすめたり、感想を言ってるうちに僕の感想自体が物語になっていったと言うか、変な思い込みが出来ていた事に今回気付かされました。

『MONSTER』全18巻と絵本『なまえのないかいぶつ』

ドイツ・アイスラー記念病院に勤務する日本人医師・天馬賢三は、瀕死の重傷を負った双子の一人・ヨハンという名の少年の命を救う。同時期に入院したデュッセルドルフ市長の執刀をそのため拒否した彼は、市長の死の責任を問われ政治的に窮地に。だが院長ら上層部の怪死で逆に外科部長に出世する。その9年後、失踪したあのヨハンが現われ、院長らを殺害したのは自分だと告白する。天馬は無実の罪で追われながら、ヨハンを追跡する。

MONSTER

僕の周囲には『MONSTER』を好き、浦沢直樹さんの作品を好きな人が多いのですが、大人気になったためか、「おもしろい」と言いきる人はあまりいません。もっとも多いのは「おもしろい。でも、話を引っ張りすぎ」という意見です。「人気が出すぎたので連載を終わらせられなかったのではないか?」と邪推したくなっちゃうんですね。僕もそう思っていました。テンマとヨハンが最接近する9巻あたりで終わるとちょうど良い感じだなぁと思ってました。でも物語は18巻まで続いています。

で、今回読み直し始めたときも「9巻あたりで終わるといいなぁ、と思うだろうなぁ」と思いなが読んでいたのですが、7巻から18巻まで一気に読んじゃって、そんなことちっとも感じませんでした。それどころか、今までで一番おもしろく読めました。正直に言いますと、今まではラストの意味、もっと言うとこの物語の芯の部分を理解していなかったように思います。今でも巧く説明はできませんが、なんかこう、見えた、というのが一番しっくりくる表現です。そう、僕にも「終わりの風景」が見えたんです……というのは言ってみたかったから言っただけです、すみません。でも、最終巻を読んでいて、以前は触れられなかったものに触れた、という感覚をひしひしと感じたのは事実です。物語との距離は確実に縮まったと思います。

この物語には、夢や希望の概念すら持たせてもらえなかった人間がたくさん出てきます。夢や希望を持たせない人間が悪なのは当然として、その被害者は悪い存在とは思えないんですよね。でも、そういう人間と、夢や希望を持つ人間が戦うわけです。
夢や希望を持つ人間は、戦っているというよりも、被害者を救おうとしていると言えるのかもしれません。みんなが幸せになりました的な青臭い結末になればいいのですが、今まで散々青臭い台詞で人間賛歌的なことを伝えていたのに、そこのところはピシャッとドライに描いています。それがやるせなくて、たまらんです。

MONSTER 完全版(ビッグコミックススペシャル)全9巻セット

絶対に先が気になる物語なので、思い切って全巻まとめて購入することをおすすめします。読み終わって気にいるかはまた別のお話ですが。

もうひとつのMONSTER―The investigative report

この物語の後日譚が、事件のレポートという形で出版されています。読んでも読まなくてもすっとしないのは同じですが、作者の遊びと仕掛けにはまれます。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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