美女缶
映画館で観た人だけのご褒美

数年前のPFFで観たのですが、「巧いなぁ〜」と感嘆したのを憶えています。もう一度観たいと思っていたのですが、まさかDVDが発売されているとは思いませんでした。おまけになんですか、テレビドラマにまでなり、さらに小説まで……。
最近はテレビも必死にいい作品を探しているようなので、こういった若手監督にチャンスが与えられるのは素晴らしいことだと思う反面、映画好きの間だけでこっそりと楽しんでおきたい種類の作品だったな……と少し寂しい気分にもなりました。

『美女缶』チラシ

「美女缶」から生まれた美女と主人公の切ない恋物語なのですが、当時の情報から僕が想像したのは完全なコメディでした。そのつもりで映画館に足を運んだので、ラストの展開はまったく読めませんでした。初めからシリアスな描写が続いていればなんとなく想像できるオチも、終始軽いノリで進む展開にのせられてうまく隠されていたんですよね。
とにかく設定がきちんと考えられているし、自主映画ではおろそかになりがちな小道具などもとても丁寧。特に美女缶の説明ビデオはきちんと作られているし、うさんくさい外人が出てきておもしろいです。

そんなわけで、物語が終る前に好きになり、「すごいな。おもしろいな」とかなり高揚していたのですが、どう終わらせるのか少し不安を感じていました。僕が今まで観たことがあるいくつかの自主映画は、設定や物語自体はおもしろいのに、その勢いを失いながら終ってしまうことが多かったのです。

でもこの物語は、ラストでもう一段ギアを上げて、物語を引っ張り上げます。それがばっちりはまり、物語の終わりを予想させず、素晴らしいラストを観せてくれます。映画館の雰囲気が一変しましたからね。全員が「え……」となってました。人気俳優を起用してテレビでリメイクされたこともあり、結末を知っている人も多いと思いますが、あの空気感の変化を味わえて本当に良かったです。

撮影技術とかはさすがに商用映画に劣りますが、脚本の完成度が高いので、十分カバーできてますね。あと、自主映画を撮ったことがある人なら、誰しもがやりたくなるであろう編集テクニックとかもあって、ニヤリとしてしまいます。そういった技巧に遊び過ぎることもなく、物語を丁寧に作ろうという姿勢が感じられ、とにかく応援したくなる作品でもあります。ちょっとでも興味を持った人は、軽い気持ちで観て欲しいと思います。時間も短いですし。

美女缶

「映画撮りたいな」と思っているだけの人の気持ちをへし折るぐらいおもしろいです。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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