素晴らしい世界
厳しく優しい世界

一話完結オムニバス形式の漫画ですが、それぞれの物語がほぼ完全につながっています。と言っても強いつながりではなく、あくまで「お隣さんの物語」ということになっています。でも、すこしだけ影響しあっています。現実の世界と同じですね。さえないOLや、優等生の仮面をかぶった中学生、ただなんとなく予備校がよいを続ける浪人生など、いろんなタイプの人々が一瞬主人公になるわけですが、共通していることは、何かに対して迷っている人、立ち止まっている人、立ち止まってたい人、ということでしょうか。

職場の方に唐突に貸してもらい、どんな物語かもわからないので解説を求めると「これはね、全てが一つの世界なんですよ」という一言だけ与えられました。なんか宗教みたいだな、と思い、そっと引き出しに入れっぱなしにしていたのですが、先日電車の中で『椿姫』を読み終わったので、他に読むものもないし仕方なく帰りの電車で読み始めました。気がつくと、隣の人に「これ知ってます? なんかねぇ……いいんですよ。全てが一つの世界なんですよ」と唐突に貸し付けたくなりました。

浅野いにおさんには圧倒的な才能を感じたりはしないんですが、むちゃくちゃうまいなぁと思います。間のとり方とか。……というか、うまいとかそんなことではなく、しっかりと描きたい世界があって、それをちゃんと、しっかりと描いているんでしょうね。物語に余裕というか……うーん。ゆっくりと流れる確かな時間があります。僕はいとも簡単にこの人の作品世界に引き込まれてしまいました。最近いろんな物語に引き込まれっぱなしで危ないです。

作品全体としては、いちいち厳しい現実を直視させたうえで、厳しい世の中の優しい一面に気付かせるという感じです。タイトルに偽りなしです。ほんとうに「素晴らしい世界」を描こうとしているし、それは成功しているように見えます。特に若い人たちは、「生きてるとつらいこともあるけど、ちょっとぐらい夢見たっていいわな」と思えるんじゃないですかね。

ただ、全ての話が平均以上におもしろいと思いますが、やはりムラはありますね。個人の好き嫌いがあるので一概にそうとも言えないかもしれませんが、「とてもオリジナルな作品だなぁ」と思うものと、「どこかで読んだことがある……かな」と思うものがあります。それでも十分おもしろいですけどね。なんてちょっとケチをつけたくなるくらい素晴らしい物語です。ただの嫉妬かな、これは(笑)。

2004年07月05日(月)

読書

Text by pushman