村上春樹全作品 1979〜1989〈5〉短篇集〈2〉
未収録なのにはワケがある

短編集『カンガルー日和』『回転木馬のデッド・ヒート』に加え、本作のために書き下ろされた『沈黙』と、何作かの単行本未集録作品が読めるという、とても得した気分になれる作品集『村上春樹全作品 1979〜1989〈5〉短篇集〈2〉』を読みました。

僕は『カンガルー日和』に集録されている「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という短編が猛烈に好きです。この作品集の解説に、「100%の女の子」好きな僕にとって嬉しいことが書いてました。なんと村上春樹さん自身も『カンガルー日和』の中で「100%の女の子」が一番気に入っているそうです。作品には全く関係ないんですがそういうのって相当嬉しいです。ミーハーなんですね。ちなみに山川直人監督作品「100%の女の子 / パン屋襲撃」も春樹さんはお気に入りのようです。この映画、僕も結構好きなんですが、僕にとって室井滋さんは「100%の女の子」ではないのは確かです。どんどん話はそれますが、大森一樹監督作品「風の歌を聴け」にも室井滋さんは出演されています。ヌードになってます。

今回の春樹さん自身による解説ですが、作品量が多いのであまり突っ込んだ解説はなく、ちょっと物足りないなぁと思います。しかし春樹ファンには嬉しいことがありました。僕が長年疑問に思っていた『回転木馬のデッド・ヒート』の冒頭に書いてある「ここに収められた文章は原則的に事実に即している」ということの真実が書かれているのです。春樹ファンなら知ってて当然なのかもしれませんが、すごくすーっとしました。これだけで2,000円ぐらいの価値があります。

全作品シリーズに収録されている作品は全て改稿されています。今までの全作品では改稿個所に気付くことはありませんでした。でもこの短編集は結構気づきました。ほんの少し書き足されただけで、作品の雰囲気はかなり変りますね。結果はどうあれそれを感じられたことは嬉しいです。また、文章ってほんとに繊細なものなんだと(今更)気付きました。ただ残念なことに「100%の女の子」はオリジナルのほうが断然良かったです。「何回も読み直したから、相当気に入ってるから、引っ掛かったのかな?」と思ったのですが、前作妃嬪読み直してみてもやはりオリジナルの方がいいと思います。

さらなるおまけとして、結構な数の単行本未収録作品が掲載されているのですが、うーんこれも、やはり、載せるべきでは、なかった……かと……思います。読む前は相当楽しみにしていたのですが、やはり一度見切られたものはそんなに良くないですね。僕みたいに「とにかく村上春樹の文章を読みたい」という人にはいいと思いますが。もちろん「くだらない」とまでは言いませんが、他の作品と比べると見劣りするということです。

そんなこんなで作品集全体としては、ちょっと不満が残ります。正直に言って。もちろん喜びはあるんですが、「珍し物見たさ」を満たしてくれる喜びが大半です。ですが、が、いろいろ文句言ってますが、やはり村上春樹さん、最後はきっちりしめます。この本の最後の物語『沈黙』は本当に素晴らしいですね。何回読んでも心をグラグラと揺さぶられます。そりゃ「全国学校図書館協議会」も選ぶわ。ほんとね、中高生頃に読んでたらもっともっとやられていたと思います。春樹さんのテーマの一つである、個人と暴力を克明に描いています。この物語が作品集の書き下ろしだけで終わらず、『レキシントンの幽霊』にも集録されて本当に良かったと思います。

収録されている作品のいくつかは、元々に好きな作品だったりするのですが、以前より深くしみ込んできました。歳をとっていく上でこういうことは必要で、かつ幸せなことですね。何故自分がその作品を好きかということがはっきりとわかってくるようになるし、自分の変化を身をもって体験できるし。うん、歳とって良かった。同じ作品を読み続けることで感じられる良いことの一つです。

2004年07月12日(月)

読書 /

Text by pushman