白鳥の歌なんか聞えない
「死」と「愛」に若さで抗う物語

薫くんシリーズ第2弾、『白鳥の歌なんか聞こえない』を読みました(4回目ぐらいですが)。若さにあふれる薫くんたちが、「死」のもつ魅力と美しさに圧倒されながらも、必死に「死」から逃れようとする物語です。薫くんシリーズ4作品中、唯一数日間にわたる物語で、そういうことも関係してか他の3作品とトーンが少し違います。といっても薫くんは普段と変わらず、じたばたしながらいろんなことを考えて、いろんなことを体験して、いろんな発見をします。普段と違うのは、薫くんの周囲の人たちです。幼なじみの由美ちゃんは普段口にしない、薫くんの(死んでしまった)愛犬ドンの話をしたり、おまけにドンの代わりにといって、犬のぬいぐるみをプレゼントしたり。最初は警戒していた薫くんも、だんだん心配になってきて、男の子特有の期待と不安を持ってオタオタします。

由美ちゃんはじめ、この物語の登場人物は普段よりちょっと背伸びをしています。今まで自分がそんなことをする(言う)なら、「舌かんで死んじゃいたい」となるようなことを、本人も戸惑いながらして(言って)しまう。今まで認識しながら感じることのなかった、「死」と「愛」という人生でもっとも重大な部類に属する難問に直面することになるからです。そんな中薫くんは、「愛」というものに魅せられる友人を羨ましく思いながら援護射撃し、「死」に魅せられている由美ちゃんを取り戻そうと、必死で頑張るわけです。

この物語は、シリーズ4作品中もっとも薫くんと由美ちゃんの関係がわかる物語に仕上がっています。ちょっとおかしく(?)なってしまった由美ちゃんを過剰なまでに警戒する薫くんから、二人の日常関係がよーく伝わります。かなり気まぐれな由美ちゃんに、いかに薫くんが振り回されてきたか。普段会話が弾んで雰囲気もすごくよくなって、お互い「キワドイ」会話なんかを楽しんでいても、突然「あなたは、ほんとに下品でエッチで軽佻浮薄なひとね」なんて言われ続けている薫くんは、由美ちゃんの優しさにあふれる言葉や行動に心揺さぶられながらも男の子としてのメンツにこだわり、あれこれ妄想を働かせ、薫くんの「情熱の実力」を必死に押さえつけます。今の高校生なんかからすれば「キモイ」と一言で一蹴されてしまうことは間違いないと思いますが、男の子って基本はこんなもんだと思います。期待も不安も大きすぎるんですね。それに気づいたところで、今度は男の子としてもメンツがむくむくとふくれてきて……ようするに「かっこわるいこと」はしたくないと。でも、それ自体が「かっこわるいこと」になってしまって……いや、何度も言いますがほんと男の子は大変です(笑)。

薫くんが他の男の子と違うところは、最後までその姿勢を貫き通すことです。「死」を感じることによって、薫くんの大切さに気づいた由美ちゃんがどんなに優しくしても、「いつかは死せるもの」としてのまなざしで見つめられることを、断固として拒否する薫くん。その「優しさ」と「死」というものに翻弄されて、本当に疲れてしまった由美ちゃんが薫くんに全てをゆだねようとしても、薫くんはぎりぎりのところで踏ん張るわけです(ちょっと踏ん張りそこなってますが)。いや、かっこいいいですよ、薫くん(相当かっこ悪い事態にはなっているとはいえ)。とはいえ、添え膳食わねば……的にだらしないという意見もあると思うし、僕だって実際にかわいい女の子が自分に全てをゆだねてきている状況でなにを頑張るって一つしかないじゃないか、とも思うんですが……やっぱりね、物事にはしかるべきタイミングというものがあって、自分でそこの見極めの基準をきちんと持たないと。それができる人はそんなにいないと思いますけれども。

なにか自分が敵わないものから逃げるため、隠れるために他人の優しさを頼りにしたり、自分の弱さを見せたりするとね、後々とてもきついことになりますからね。薫くんがだんだん大人になって(今54歳なはず)、このときを振り返ったとき、こっぱずかしくて「ギャッ」なんて声をあげるようなことにはなっても、後悔することはないんだろうなと思います。

だからこそ、そんなドタバタした戦いの後、由美ちゃんの家の前で優しさいっぱいになりながら部屋を見上げる薫くんの「情熱の実力のほどを見せてやるんだ」という決意を、読み手も優しい気持ちで聞くことが出来るのだと思います。

2004年06月13日(日)

読書 /

Text by pushman