Heartfield

What’s so bad about feeling good?

人生スイッチ重要なのは、スイッチを入れるタイミング。

2015年09月09日(水)

映画

Text by pushman

久しぶりに行った映画館で目に入ったチラシ『人生スイッチ』。その理由はキャッチーなタイトルにもあると思いますが、なぜか「知ってる監督の作品ぽいな」という直感でした。正確には監督ではなく製作者でしたが、その人は『オール・アバウト・マイ・マザー』のペドロ・アルモドバル。このややこしい名前をほぼ正確に覚えていたのに、肝心の内容をまったく憶えていないことは、自分の年齢に想いを馳せる原因となり哀しくなりました。しかし、この映画の存在に気がつき興味を持ったことは、まだまだ自分の感性アンテナは鈍っていないんだという安心感も与えてくれました。

『人生スイッチ』と『オール・アバウト・マイ・マザー』のフライヤー

作品形式は6つの短編からなるオムニバス。第1話『おかえし』は、仕事先に移動するために飛行機に乗った美人モデルと機内で隣り合わせた音楽評論家の会話が発端となり、乗客全員がモデルの元彼と知り合いであったことが判明。しかも全員が彼となんらかのトラブルを抱えており、おまけに元彼はこの飛行機の客室乗務員であることが発覚し、機内は一気に混乱した空間に変貌します。
終わってみると何気ないやり取りの全てに意味があったことがわかる、短編のお手本のような物語。オチまでとてもテンポよく進み、ニヤリとさせてくれます。

第2話『おもてなし』の舞台は雨の影響で暇そうなレストラン。やっとやってきた客はその店のウェイトレスと浅からぬ因縁がある、感じが悪い高利貸しの男。その因縁を知った同僚は彼の毒殺を謀りますが、そこに男の息子がやってきたことで計画に狂いが生じます。
6話の中で一番不条理な気がする物語で、狂気の女調理師がラストに見せる表情が「どうしてこうなった?」という笑いを誘います。

第3話『エンスト』は狂気で恐怖の物語。田舎の高速道路を新車で走り抜けるやり手風の男。ノロノロ運転のボロ車に罵声を浴びせながら抜き去ったまでは良かったのですが、その後タイヤがパンク。タイヤ交換に手間取っていると先ほどのボロ車が現れ、運転手から常軌を逸した報復に合うはめになります。
かなりきっつい報復が続くのでちょっと疲れますが、怒りの解放を目の当たりにすると「いけっ!」ってな感情を持ってしまうのも事実です。そういう意味でも怖い物語でした。

第4話『ヒーローになるために』は仕事優先で頑張って家族を支えている男が主人公。娘のバースデーケーキを受け取っている間の短い時間に駐禁をとられてしまい、パーティーに遅刻。これが発端となり妻に三行半をつきつけられ、こつこつ築いてきた幸せを失ってしまいます。茫然自失となり自分のすべきことを見つけた彼は、悠然と反撃のスイッチを入れことになります。
男が持つ怒りと同じようなものを、多くの人が心に抱いていると思います。そのためオチも良い話風にもたらされたのかもしれません。

第5話『愚息』は大金持ちの男に訪れる悲劇。酔っ払い運転で妊婦をひき逃げしてしまった息子を守るべく、使用人を身代わりにする計画を弁護士と立てますが、あえなく失敗。次は検察官の買収を画策しますが、その報酬をめぐって話は二転三転。ブチ切れた男は計画の中止を決断。しかしお金が欲しい検察官、弁護士、使用人は計画の実行を希望し互いの利益は確保されるのですが……
最初は金持ちの男がただただ冷血漢に見えて憤ってしまいますが、欲の虜となった人々とのお金の交渉は見ててかわいそうで、滑稽でした。オチに救いがないのですが、それはしょうがないわ……と思ってしまうところも怖いです。

最終話『HAPPY WEDDING』の舞台は新婚夫婦を祝う親戚、友人、会社の同僚が集まった披露宴。その中に新郎の浮気相手まで含まれていることが新婦に発覚。最初は怒りと哀しみで錯乱状態になる新婦ですが、とことん新郎に復讐するため行動を開始します。
最終話にふさわしく、主役の2人をはじめいろんなタイミングでいろんな人のスイッチが入ります。そのスイッチの種類も豊富ですが、最後に入るスイッチはなかなか素敵です。

どの物語も、気がつけば人生の重大なスイッチを押してしまった人々がコミカルに描かれて、終始ニヤニヤして楽しむことができました。とはいえ、ちょっとしたきっかけで人生の様相ががらりと変わってしまうのは、なかなか怖いです。それでいて最後の物語は奇妙な幸福感(はちゃめちゃなんですが)をもたらせてくれるので、嫌な気分で劇場を後にした人は多くはないのではないでしょうか。

人それぞれ、いろんなスイッチを持っていますが、苛立ちや怒りを元にしたものは良くない結果をもたらすことが多いです。たまにはそれが好転していくこともあるようですが、そこに至るまではかなりつらい思いを乗り越えないといけません。短気は損気。誰しも一瞬、一時の感情で行動してしまうことはありますが、負の感情が元になっていないかどうかぐらいの判断はできる余裕を持って生きていきたいものです。

映画『人生スイッチ』公式サイト