ようやくおいしく食べられた鴨肉
3年ぶり3羽目のカルガモ
狩猟をする前から、イタリアンレストランの前菜などで年に数回は口にする機会があった鴨肉。特別おいしいと思わないまでも、普段食べている鶏肉とは違うという一点で、「今贅沢をしているなぁ」とうれしくなる食材だった。だから狩猟を始めようと思って以来、野生の鴨肉の味をとても楽しみにしていた。食に対する関心があまりなかったので、なんだって天然物の方がおいしいと思い込んでいたのだ。
初年度はなにも獲れず、2年目でようやくようやく手にした獲物であるカルガモは、「……こんなもんか」という味だった。正確に言えば、砂肝、心臓、手羽、モモ肉はめちゃくちゃ旨かった。でも、量が少ない。
鴨肉で量が多いのは胸肉だ。いわゆる「鴨ロース」。ローストにしたり鍋の具材にするのはこの胸肉。ところがこの胸肉の調理が難しい。火を通しすぎるとパサつくし、レバーっぽい風味になる。僕は先輩猟師のアドバイスに従いすき焼きにしてみたけれど、普段すき焼きを食べないのでいろんな点で失敗し、「おいしい!」と喜ぶことはできなかった。
それでもなぜか、鴨肉への憧れが消えない。処理や調理方法が拙いために、おいしいはずの鴨肉をおいしく食べられていない気がしてならない。そして3年ぶりに獲った3羽目のカルガモ。エースハンターで獲ったけれど着弾点がわからなかったため念の為に腸を抜き、そこに小さな保冷剤を突っ込んで急冷。翌日羽根を毟って解体し、内臓肉以外を丁寧に真空パックにして冷凍。ここまでは理想的に処理ができた。そして4日後、手羽とモモ肉を塩焼きにすることにした。
鴨の手羽、モモ肉の旨味
鴨の手羽とモモ肉は、めちゃくちゃ旨い。マキシマム(塩胡椒でも可)を振りかけて焼くだけで、凝縮された旨味の塊になる。肉も皮も硬い。特に皮は噛み切るのに大変苦労する。なので切り込みを入れて食べやすくするか、思い切って一口サイズにカットして焼くのがいいかもしれない。でも骨つきで野蛮に貪り喰う方が旨いような気がする。
焼くだけで旨い手羽やモモ肉だけど、焼き方にはちょっとした注意点がある。絶対に魚焼きグリルで焼いてはいけない。フライパンで焼く場合も蓋をしてはいけない。僕はそこまで匂いが気にならないタイプなのでよくわからないけれど、匂いがこもるとその匂いが旨味を超えてくるらしい。こういうワイルドな食材は、屋外で網焼きにするのが理想的な喰い方なのかもしれない。
鴨の胸肉の妙味
そして課題だった胸肉。『わが家でつくる合鴨料理』に書かれているカルガモスープ(正しくは合鴨スープ)を作り、鴨鍋にした。肉は1mm程度の厚みにカットし、色が変わったら食べる。皮にはしっかり火が通っていない気がするけれど、そこは「大丈夫」と信じた。これが本当においしい。鴨肉のおいしさを感じられる。だからこそ火を通しすぎると途端にパサつくので、気を抜いてはいけない。でも気が緩んでしまうぐらいおいしい。
そして、スープがめちゃくちゃおいしい。そのせいか野菜が普段よりもグッとおいしくなった。たまたまおいしい野菜だったというわけではなく、鴨の風味が影響しているようなおいしさだったと思う。白菜、椎茸、えのき、ネギ、菊菜などなど、全てがいつもよりおいしい。おかげで肉の少なさ(1羽ではちょっと物足りない)を補えるぐらい野菜を食べまくった。
鴨肉のイメージの変化
狩猟で得られる肉はおいしい。そう思い込んでいた僕に、現実を見せてくれたカルガモ。食用として飼育されている家畜肉が、いかに食べやすくおいしいのかも教えてくれた。でも、自分で手に入れた野生鳥獣の肉は、家畜の肉では味わえない旨味がある(獣臭いとかそういうことではなく)。カルガモ丸々1羽をようやく堪能できたことで、その感覚はより強くなった。
来期は今までとはちょっと違う気持ちで鳥撃ちを楽しめそうな気がして、今から待ち遠しい。
わが家でつくる合鴨料理
レシピ本としても参考になるけれど、「煮る時も焼く時もフタをしない」など鴨肉をおいしく食べるための基本知識が大変ありがたい。また、レシピも家庭の料理という感じでとっつきやすいものが多い。手の込んだ料理はやる気がおきない僕のような人間にぴったり。
購入時の価格 ¥1,572
中村食肉 魔法のスパイス マキシマム
鴨肉はもちろん、鹿肉、猪肉にかけてもおいしい。これがあったら大抵のお肉はおいしくなるはず。