川辺で『山賊ダイアリー』ごっこ
カワムツ食べたり、虫を克服したフリしたり
狩猟がどんな雰囲気なのかを知りたくて読んだ『山賊ダイアリー』には、狩猟のおもしろさはもちろん、自然を相手に遊ぶことの楽しさ、おもしろさが描かれていた。おかげで野草や山菜、釣り、キャンプなど、自然の中で遊ぶこと全般に興味を持つようになった。
実際に狩猟や釣り、ベランダ菜園を始めてみると想像以上に楽しくて、気負いなくさらっと自然の中で遊びたいという思いが強くなってきた。つまり、『山賊ダイアリー』ごっこをしたくなったのだ。そんな思いをわかってくれる知人が、飼育用の小魚を捕まえに行くというので、喜び勇んで同行させてもらった。
川の様子を確認して拠点となる場所を決め、周辺の枯れた杉の葉や小枝をかき集めてから『山賊ダイアリーSS』の初回特典のファイアスターターで火を起こすことに挑戦。ダンボールを切り取り、着火させるまではなんとかできたけれど、枝に火を移すのが難しい。写真を撮ることも忘れて没頭し、なんとか火を安定させられた。不便な状況を楽しんで便利な状況を作れたことは嬉しいし、さらに楽しさが増した。
周辺を散策すると、そこかしこに獣の足跡がある。猟師たるもの足跡から「これはシカだな。あそこから降りてきて……」と見てもいない獣の動きを想像したいところだけど、そもそも何の足跡かわからない。おそらくシカとイノシシが混在していて、アライグマもいるはず。
わからないなりにあーだこーだ言いながら観察していると、藪の中からガサガサッと音がして、斜面を駆け上がっていく音だけが聞こえた。
その後は持参した肉を食ったりしながら川遊び。川の中の石をひっくり返して捕まえたカゲロウの幼虫を餌にして、オイカワカワムツを釣っていたのだけど、虫がとにかく気持ち悪い。狩猟を初めて2年経つし、同行者の手前もあるし、虫は克服した体で行動していたけれど、どうしても鳥肌が立ってしまうし、予期せぬところに虫がいると声が出そうになる。
幸い網で魚を捕っていた知人が一緒に幼虫も捕ってくれていたので、予期せぬ虫との遭遇は終了。おぞましさは消えないけれど、驚かされることがないだけで精神的には随分楽になり、釣りに集中することができた。
現地の虫を餌にするからか、おもしろいようにアタリがある。でも、なかなか合わせられない。ならばとちょっと遅めに合わせてみると、針ごと飲まれてしまい、結果的に死なせてしまうことになった。
『山賊ダイアリー』の主人公は、「自分で命を奪ったものは、極力食べる」ことを基本ルールとしている。僕もそうありたいと思っているし、機会があればいろんなものを食べたいと思うようになった。自分が殺したのなら尚更だ。そんなわけで、「かわいそうなことをした」と同時に、「カワムツっておいしいのかな?」と思っていた。
内臓と鱗を取り、自分が起こした火で塩焼きにする。食べたことがない魚なので、念入りに火を通し、恐る恐る口に入れると、旨味のようなものはほとんどなくて、「川魚です」という香りが口に広がる。不味いとは言わないけれど、おいしいとは言えない。
もっと大きいサイズだったらまた違ったのかもしれないけれど、もう食べたいとは思わない。皮を剥いで食べればもうちょっとましだったかもしれない。お腹の中に川魚がいる感覚はいつまでも残っていた。
知人はお目当の川魚(名前を忘れた)を見事に捕獲し、ご満悦。僕も『山賊ダイアリー』ごっこさせてもらうことができ、大変有意義な休日を過ごして大満足。
道中では『山賊ダイアリー』の話になり、「すっぽんがいたら捕まえて食べてみたいですねぇ」「ミドリガメも食べてみたい気がする」などと盛り上がったけれど、数年前の自分からは想像できない会話。幸か不幸かどちらも見つけられなかったし、あんなことを実行できるか怪しいけれど、自分が現地で生き物を捕まえて食べ物にする選択肢を持てるようになっていることが、なんだかとても嬉しかった。
山賊ダイアリー 第1巻
狩猟を始めてからも時折読み返している。狩猟の楽しい面だけを正しく伝えているので、読むたびに狩猟に行きたくなる。
山賊ダイアリーSS
海が舞台になっても、自然のおもしろさや怖さを楽しみながら伝えてくれるのは流石。とはいえ、後半に描かれる山の廃屋に泊まる話の方が“らしい”お話でおもしろい。作者のTwitterを見る限り、続編はしばらく読むことはできないっぽい。残念。