若い読者のための短編小説案内
村上春樹が読む「第三の新人」

3〜4年前に買っていて、ずーっと読むのをためらっていた『若い読者のための短編小説案内』を読みました。タイトルどおり、村上春樹さんが日本の短編小説を紹介するというものです。文学のことはよく知りませんが、「第三の新人」と呼ばれた方々の作品を取り上げています。村上春樹さんは、作家になる前は日本の小説をあまり読んでなかったと公言していますが、この本にはなぜ日本の小説を読んでなかったか、また、どうして日本の小説を読む気になったかも書かれています。

基本的に買った本はすぐに読んでしまうのですが、この本を何年も読まずにいたのは、二つの理由からです。

『若い読者のための短編小説案内』単行本

一つは、書評というものがあまり好きではないからです。村上春樹さんも「何年も前の作家ならともかく、同時代の作家なら書評や研究本で読み方を固めず、自分で自由に読んだ方がいいと思う」みたいなことを以前あった公式ホームページで書かれていました。僕もほんとにそう思うので、村上春樹さんが書評を書いていることになんとなく違和感を感じていて、買ったものの「さあ読もう」という気になりませんでした。
そしてもう一つ、僕は猛烈影響を受けやすいので、好きな作家が「良かった」「翻訳した」という本は、必ず読まないと気が済まないのです。僕の読書遍歴はそうやって細く深く(はないかな……)掘り進んできています。ですので、猛烈好きな村上春樹さんのおすすめはおそらく全部読みたくなるだろうと、(金銭的に)恐れて手を出さずにいました。

でもブログを始めて、しかも書評ではないですが、自分の感じたこと、思ったことをつらつらと書いていると、自分の文章の拙さや伝えきれないもどかしさが日々大きくなってきて、ふとこの本のことを思い出し、「同じように(と思いたい)書評嫌いな村上春樹さんはどんな風に書いているんだろう?」と思って読んでみたわけです。

で、感想ですがこの本、著者名を伏せられていたらちょっと村上春樹さんとはわからないかもしれません。というのも口語体で語られていて、授業をそのまま書き写したような感じなんです。後書きを読むとそのあたりの理由もわかるのですが、正直ちょっと読みにくかったです。少なくともいつもの村上春樹作品(小説であれエッセイであれ)のようにすらすらーっとは読めませんでした。うんうんなるほどなぁ、と思いながら読めましたが。
紹介されている作家の何人かの名前は知っていましたが、見事に一つも読んだことがありませんでした。なので全く予備知識が無いまま読んだのですが、読みたくなったのは、『馬』『ガラスの靴』『静物』『樹影譚』『阿久正の話』です。特に『馬』は猛烈読みたいです。

春樹さんの物語の作り手としての意見は、いかに一つの物語を作ることが大変でおもしろいことなのか伝わります。また、こういった部分を説明する時には、「ああ、村上春樹だなぁ」と思える説明をしてくれて、疑問点もきちんと指摘し、考えを押し付けるような印象は受けませんでした。好きな作品を取り上げているので当然といえば当然ですが、基本的には作品の味方をしていて、「ここ、おもしろいですよね。そこは素晴らしいですよね」ということが言いたかっただけなのかな、とも思いました。タイトルどおり、「ここにはこんな物語があって、あっちの方にはああいう物語があります」と案内してもらえたと思います。

巻末に紹介している作家の簡単な説明と、集録されている作品を紹介してくれていて、とてもありがたいです。しかし、ほとんど入手困難と書いています。この本が出版された頃(1997年)はインターネットがまだそんなに普及してなかったんですね。今はAmazonがありますし、検索したらきちんと出てきました。ほんと便利すぎる時代です。

若い読者のための短編小説案内

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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