馬
理不尽な行動の裏にあるもの
以前読んだ村上春樹さんの『若い読者のための短編小説案内』で紹介されていた、小島信夫の「馬」を読みました。『戦後短篇小説再発見〈10〉表現の冒険』に収録されています。この短編集で一番おもしろかったのは「馬」でした。ただ残念なのは、この「馬」という作品を知るきっかけになった『若い読者のための短編小説案内』で内容を大体知ってしまったため、僕が本来感じたはずのおもしろさの何割かが失われてしまったことです。
でも『短編小説案内』を読まなければ、その紹介文がおもしろくなければ、僕が「馬」という作品を読む事は無かった訳で、なんとも複雑な気分です。
「僕」は妻である「トキ子」に愛の告白をして以来、その言葉の拘束力でトキ子には逆らえなくなっています。ある日突然トキ子は新たな家を建てることになったと僕に告げ、おまけにみすぼらしい2階に「僕」を住まわせ、立派な1階には馬を飼うと宣言。しかもその家は馬の面倒を見る事でその支払いを済ませる予定だと告げます。そして、日が経つにつれ、家を建てる大工の棟梁とトキ子、馬とトキ子という三角関係が見えてきて……「僕」は全ての人間(馬を含む)から見下され、心身ともに疲労困ぱいになり自ら精神病院に入院する決意をします。
この物語、ちょっと意味のわからない事がたくさん起きるのに、「それはおかしい」と主人公が思うのは最初の頃だけ。トキ子に諭されるとあっという間にそのおかしな現実を受け入れてしまいます。この本の解説にもありますが、「戦後の父親」「男の権力・信用」の失墜を描いているようです。
でもそんなのはどうでもよくって(よくないか)、僕はすごい恋愛小説だなぁと思いました。なんのかんのいっても、互いに愛し合っている二人の物語かなと。ラストのセリフが凄くいいんですよね。恋人を信じられなくなったら読んでみるといいかもしれません。一見理不尽な行動も、実は想っているからこそなのかもしれませんよ。もちろんその結果までは責任とれませんけど(笑)。
とにかく、軽々しく「愛している」なんて言わない事ですね。