巻狩り雑感
記憶に残った2頭のシカ
4期目の猟期はいろんな経験を積み、とても充実した猟期となった。いろんな経験の引き金になったのは、初めて参加させてもらった巻狩。まったく興味のなかった巻狩だけど、参加してみるとおもしろいし、たくさんの刺激があった。猟隊のみなさんから狩猟を含めた山の知識、そして自然の中で遊ぶ知識をたくさん聞かせてもらい、狩猟や釣りがより楽しくなった。
巻狩に興味をもっていなかったのは、「単独忍び猟をやりたい」という明確な目標があったから。そして、生粋のイラチである僕には一箇所でじっと待つことを楽しめないと思っていたからだ。
ところが待ちに入ってみると、犬の鳴き声に耳をすませたり、複数あるけもの道に注意をはらったり、「何もせずじっと待つ」という状況とは言えない。おまけに獲物との遭遇率が高い場所に配置してくれているので、頻繁にシカの気配を感じるし(勘違いも多い)、待っている間は終始緊張感があった。
僕が経験した巻狩の待ちは、「かなり遭遇率の高い待ち伏せ猟」と言った方が正確なのかもしれない。犬の鳴き声が聞こえる度に、ガサガサという音が聞こえる度に、視覚と聴覚の感度が一気に高まり、他の感覚が遮断される。この瞬間がなんとも言えず心地良く、とても楽しい時間だった。
巻狩に参加してたくさん見たシカの中で、特に記憶に残っている3頭がいる。1頭は犬からかなり距離をとって逃げてきた3頭の中の1頭。危険を察知し、でもまだ逃げ切れるという確信をもったように、音を立てないギリギリ、追われるシカとしてはかなりゆっくりとしたスピード(人間の早歩きぐらい)で視界に現れ、数秒後にはもう走れなくなっていた。
このシカが初めてMSS-20で仕留めたシカになった。
あとの2頭は、犬に追われて逃げてきたシカの親子だ。
待ちの最中に聞こえてくる犬の鳴き声は地形のせいで反響し、自分との位置関係を正確に把握するのが難しい。それでも鳴き声が大きくなればこちらに向かってきていることは間違いない。そして、ある瞬間に反響が消えて鳴き声が直接耳に響く。
こうなったら鹿が自分の近くを通るまであと少し。息を殺して待っていると、ガサガサ、そしてドドドッという足音が響き、2頭のシカの姿が見えた。
人間では走れない傾斜の雑木林を駆けていく2頭。スコープに捉えたものの追いかけるのがやっとで、そのまま見送ることしかできなかった。しばらくすると犬が現れて、シカが通った場所を正確にトレースして後を追う。
その光景を見ながら、無意識で追われているシカをかわいそうに思っていた。似たような光景は何度か見ていたけれど、シカの通った道をほとんど完璧にトレースする犬の能力を目の当たりにし、「あれじゃ絶対に逃げられないじゃないか」とシカの立場になって絶望したんだと思う。
「猟」と「狩り」のニュアンス
当たり前と言えば当たり前だけど、巻狩には「狩り」という言葉がピッタリだ。「巻猟」ではなく「巻“狩”」。獲物の逃走ルートを予想して人を配置し、待ち伏せして撃つというのは、よく考えたら結構冷酷だ。
「獲る」は好きでやってる感じがするけど、「狩る」は必要に迫られているようにも感じる。——現代においてはどっちも好きでやっていることだけど、言葉の響きとして。
必要に迫られている人がいた時代に考えられた巻狩は、効率良く獣を獲るための知識、知恵、技術がある。それらは単独忍び猟にも役立つはず。「狩り」も「猟」も楽しめる性格でよかった。