狩猟(有害鳥獣駆除)とアマチュア無線
開局してはみたけれど

狩猟免許を取得するため予備講習会に参加した4年ほど前に、「これからはアマチュア無線ではなく、有害駆除でも使えるデジタル簡易無線がおすすめです」的な話を聞いた覚えがある。いくつかの狩猟関連のサイトでも、「これから狩猟を始めるならデジ簡がおすすめ」と書かれているのを見た記憶がある。
その甲斐あってか有害駆除だけではなく趣味の狩猟でもデジ簡を使う人たちも増えてきたらしい。ところが、ここにきて有害駆除でもアマチュア無線が使えるようになったらしい。逆に?

駆除に参加したことはないけれど、ボランティア的な側面も強く負担も大きいはずなので、「狩猟にアマチュア無線はOK。でも、駆除に使ってはいけない」というルールは釈然としていなかった。でも、4アマの免許を取得するために勉強(というか暗記)してみると、狩猟と無線の関係に疑問が出てきたので調べてみた。

VX-6
見慣れたスマホとは違い、いかにも「トランシーバー」といったゴツゴツした外観に惹かれて購入したVX-6。

アマチュア無線の利用目的

アマチュア無線業務は電波法施行規則第3条(業務の分類及び定義)の15で「金銭上の利益のためでなく、専ら個人的な無線技術の興味によって自己訓練、通信及び技術的研究の業務をいう」と定められている——というか定められていた*1。ざっくり言えば、「無線技術に興味があるなら電波を使っていいよ。でも、業務(仕事)で使ったり、お金儲けはしないでね」という感じだろう。

文字通り解釈するならツーリングや山登りなどを楽しみつつ仲間と無線でやりとりする、っていうのはアウトな気がするけどそれは問題ないらしい。狩猟で使う場合も同じ解釈の元に利用されている。
「いやいや、無線技術への興味がないならアマチュア無線を使っちゃいけません」と言われても、「興味がある」と思えばいいっぽい。
過去にアマチュア無線がブームになったのも「自分の無線技術を高めたい」という人が多かったわけではなく、レジャーで利用したい人が多かったんだろうし、「仲間内の連絡手段に使う?……まあ、いいでしょう」というのがアマチュア無線の利用目的の実態なんだろう。

というわけで、狩猟期間中に行われる趣味の狩猟ではアマチュア無線を使っても良くて、金銭が発生する狩猟期間外の有害駆除ではアマチュア無線を使ってはダメ、という解釈になっていた理由がようやく理解できた。

今回の改正でアマチュア業務の幅が広がり、有害駆除など「総務大臣が別に告示する業務」でもめでたくアマチュア無線を利用できるようになった。めでたしめでたし……と思っているのは該当する業務でアマチュア無線を使えるようになった人達で、解釈の余地なくアマチュア無線業務の定義に該当するであろうアマチュア無線愛好家の多くは怒っている。

アマチュア無線の運用ルール

アマチュア無線局を開局すると自分だけのコールサインが与えられる。通信時はこのコールサインを必ず名乗らなければいけない。アマチュア無線愛好家の人達が有害駆除、そして狩猟期間中の狩猟でのアマチュア無線利用に反発するのは、このルールを守っている猟隊が圧倒的に少ないからだろう。特定の周波数を独占してしまうことも多いみたいだ。

無線局運用規則の第126条の2(呼出し又は応答の簡易化)には呼び出し、応答時にコールサインを簡略化できる状況が示されている。「確実に連絡の設定が認められる」という状況がよくわからないけれど、仮に「集合場所で各自がコールサインを伝えてそのまま通信を継続している間」が簡略化できる状況とした場合でも、呼び出す側が省略できるのは自局のコールサインのみ。猟隊全員に連絡するなら「CQ(でいいのかな?)」、特定の人に連絡するならその人のコールサインは言わないといけない。呼び出された人は自局のコールサインは省略できるけど、呼びかけた人のコールサインは名乗らないといけない。

同じく無線局運用規則の第126条の3(呼出符号の使用の特例)を読むと、簡略した符号または名称(名前やあだ名でもいいのかな?)を使えるようにできるみたいだけど、もちろん申請が必要。とはいえ、「狩猟中にコールサインなんて名乗ってられないよ」という理由では許可されない気がする……というか、調べたら狩猟では絶対に許可は出ない。当たり前か(笑)。

ちなみに、総務省のページで「少なくとも10分に1回はコールサインを送出しましょう」と書かれているけれど、無線局運用規則の第30条(長時間の送信)を見る限り長時間(10分以上)送信し続ける場合の話だと思う。「一度コールサインを言えば10分以内はコールサインを言わなくてOK!」という話ではないはず。

狩猟でのアマチュア無線利用は難しい

改めてアマチュア無線業務のルールを確認すると、巻狩中にルールを守ってアマチュア無線を使うのはめちゃくちゃめんどくさそう。駆除で使うことが認められたからといって、駆除中はコールサインを名乗らなくてもよくなったわけではない。
雑誌『けもの道 2021春号』で、「厳密にアマチュア無線のルールに従った場合の巻狩りシミュレーション」という記事があるらしく、そんな特集があるということが狩猟中はアマチュア無線のルールに従っていない人がほとんど、ということなんだと思う。

ではアマチュア無線の日常はどんな雰囲気なんだろうと思って、VX-6のモービル運用を試行錯誤しながら適当に144/430MHz帯をワッチ(というらしい)してみた。
平日は道路情報?や道沿いのお店情報?みたいな雑談がほとんどだった。こういう方々がコールサインを口にするのは聞いたことがない。
休日になると自宅やどこかの山から発信している人がちらほら。こういう方々はちゃんと最初にコールサインを名乗っているし、応える人もコールサインを伝えている。

こうした方々のやり取りを聞いて驚いたのが、コールサインの伝え方。コールサインのすぐあとに「ジュリエットなんちゃらかんちゃら……」と流れるようにフォネティックコードを伝えていて、何回聴いてもフォネティックコードに気を取られてコールサインを認識できなかった(笑)。通信内容は古き良きブログの交流の雰囲気というか、相手を不快にさせないように気を使いつつ、適度に近い距離感でやり取りしていて楽しそうだった。

閑話休題。そんなアマチュア無線愛好家の中でものんびりタイプというか、コールサインを名乗らずのんべんだらりとしゃべっている、しゃべり続けている人もいた。たまにおもろいおっさんや特徴的な語尾で送信を終わるおっさんがいて、思わず笑ってしまうこともあった。

個人的にはその通信が誰かの迷惑になっていないのであれば、「まあまあ」と許容する世界がいいと思うけど、「そんなのダメだ」と言われたら「はい。その通りですね」としか言えない。そういうルールだから。
どんな状況であれ、アマチュア無線業務ではコールサインを言わないといけない。絶対に。となると、やっぱり狩猟で使うのは難しいなという結論になる。

無線愛好家の中にも「悪意を持って運用していなければ、コールサインの非通知ぐらいいいじゃん」という意見もあって、正直に言えば僕もそう思う。でも、それは法律的にダメなことで、真面目に楽しんでいる人たちが憤る気持ちもわかる。

ずっとアマチュア無線を使い続けている猟隊からしたら、今更みんなでデジ簡を買い揃えるのに抵抗があるのもわかる。ベテランの方はいつまで狩猟を楽しめるかわからないだろうし……。でも、鉄砲と同じく無線が必須の道具だったら、ルールに従うしかないよなとも思う。

有害駆除でアマチュア無線が使えるようになったことで、この問題が良い方向に向かうとは思えない。デジ簡の普及に力を入れるか、別のアナログ無線の利用方法*2を模索した方が良かったんじゃあないかなと思う。
寝た子を起こした……ってなことにならなければいいんだけど。

これから狩猟を始める人は?

以前も書いたけど、自分がどんな狩猟を楽しむかまだよくわからないという人は、4級の従事者免許は取っても損はしないと思う。費用もそれほど高くないし、試験は簡単だし、終身免許だし。「着々と狩猟の準備が進んでいるぞ」と気持ちも高ぶると思う。参加する猟隊がアマチュア無線を使っていなければ従事者免許は不要になるけど、いつかアマチュア無線を使っている猟隊に参加するかもしれないし。
参加する猟隊がアマチュア無線を使っているとわかれば、開局申請をする。免許状が届くまで1ヶ月ぐらいかかるので早めに動いた方がいい。
実際に参加する時はコールサインを名乗ることはもちろん他のルールも遵守する。猟隊によってはいろいろと苦労することになるだろうけど——そこはまあ頑張るしかないわけで。

……やっぱり、狩猟でアマチュア無線を使うのはどう考えてもしんどい(笑)。個人的にはデジ簡への移行を推進してくれた方がありがたかったなぁ……と思っている。

第4級ハム国試 要点マスター

試験に申し込んでから1日30分程度この本を読んで、「第4級アマチュア無線技士 過去問題集」で模試を繰り返し、無事合格できた。

購入時の価格 ¥1,320

参考リンク

Update:

Text by pushman

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