獲物はスレているか?
2019年度 2回目の出猟
釣りや狩猟では「スレる」という言葉がよく使われる。「ここの獲物はスレてるな」「獲物がスレてきたな」なんて感じで使うことが多い。自分が人間に狙われていることを理解した獲物の警戒心が高まるにつれて、この言葉の使用頻度は上がる。
狩猟解禁日から日が経つにつれて警戒心が高まるのだから、一番スレていないのは当然解禁日になる。だから解禁日は、発砲したからには仕留めないといけない。仕留められなかった場合の言い訳が難しい……というか、言い訳できないからだ。もちろんいつだって獲れないのは自分の腕の悪さが原因で、それは十分わかっている。でも、獲物がスレていたら近づくのも難しいし、焦れば余計に命中させるのは難しくなる。こういう風に、自分の腕を棚に上げる理由がある方が精神衛生には良いのだ。
今年は自分の腕を棚に上げる癖を克服すべく、解禁日に出猟するつもりが体調を崩して断念。一週間かけてようやく回復したけれど、もう自分の腕を棚に上げ始めてもいいぐらいの時期ではないか……と思いながら、猟場に向かった。
1年ぶりのマガモ。
久しぶりに忍び足で池に近づく。これだけのことがとてもワクワクする。期待に反してなにもいないけれど、ここで気を抜いて隠れていたカモに逃げられることが何度あったことか。
今年はそんな失態は避けたいので、ボサ越しに双眼鏡を覗いて丹念に探る。しかしゴミ袋が浮いているだけ……と思ったらマガモの群れだった。
すでにこちらに気が付いている様子でそわそわしている。慌てず銃を構え、1羽をスコープで捉える。1年ぶりに見るマガモのオスは、とても美しい。久しぶりに味わう生き物に銃口を向ける緊張感。狩猟をしているという嬉しさを噛み締めながら、マガモの頭に狙いを定め、引き金を引いた。
発砲音が鳴り響き、一瞬の間をあけて一斉に鳴き出すマガモの群れ。狙ったマガモもしっかりと騒いでいる。相変わらず射撃の腕がひどい。ところがマガモは1羽も飛び立たない。
慌てて頭を引っ込めて再びポンプしたけれど、「やっぱり逃げよう」という感じでマガモ達は飛び立ってしまった。
気を抜かなければ2発目も撃てたはずだけど、がっかりばかりもしていられない。今後のために狙撃ポイントから目ぼしい目印の距離を測っておく。最初にマガモがいたあたりまでは約40m。目測とそんなに違いはなかったので、やはり射撃力に問題アリだ。発砲後に隠れていた場所は30m。こんな近距離でマガモに遭遇したことはないので、なおさら悔しい。
と思っていたら、2羽のカルガモが茂みから出てきて飛び去った。全く身を隠していなかったので、出てくるタイミングを見失っていたのかもしれない。「今年もか……」と思いながら飛び立ったカルガモの行先を見届け、視線を池に戻すと、今度はオシドリのつがいが出てきてあっという間に飛んで行った。
結局この池にはマガモの群れとカルガモ、オシドリのつがいが居たことになる。マガモを見てはしゃいで全体の確認がおろそかになっていた。
コガモ騒動、再び。
自分が成長していないことは認める。でも猟期は始まったばかりだし、最初の池でこれだけの出会いがあるのはとても運がいい。気持ちを前向きにして移動すると、コガモの大群を発見。2つか3つの群れが集まっているようだ。50mは離れているので、こちらにも気づいていない。数は多いけれどボサ越しなので狙える個体は少ない。左から右に泳いでくる1羽を狙うことに決める。ボサの間にレティクルの中心を合わせ、顔を確認できた瞬間に引き金を引いた。
おそらく気合いを入れすぎてガク引きになり、コガモの右側に外れてしまった。一斉に飛び立つコガモ達。全部で40羽ぐらいいる。こんなにいるのに1羽も獲れないのかと思いながら行方を見ていると、半分ぐらいが戻ってきた。再びポンプしてさっきと同じような距離にいるコガモに狙いをつけ、再び発砲。しかしこれも外してしまい、今度は1羽も残らずどこかに飛び去ってしまった。
獲物たちはまだまだスレておらず、自分の腕を棚に上げられない状況だった。
一回落ち着いてみる。
マガモの時もコガモの時も、2射目を撃てる体勢とりつつ、ちょっと身を潜めておいた方がよかったのかもしれない。いくらなんでも射撃直後は相手もこちらも気持ちが高ぶっているので、狙いを定めにくかった。次にこんな機会があれば、しばらく息を潜めてカモ達と一緒にちょっと落ち着くように、間を取ろうと思う。これは最初のコンタクトでも有効かもしれない。
まずは一回落ち着く。焦らず静かに、ゆっくりと近づく。
今日のように獲物に気づかれていなければ、クアッドスティックなどを使って委託射撃もできるはず。射撃の腕は道具と工夫でカバーするしかない。