ボビーZの気怠く優雅な人生
真剣にならないかっこよさ

本好きにも色々なタイプがいますが、僕はあまり数を読むタイプではなく、気に入った作品を何度も読み直したり、気に入った作家の作品を網羅したくなるタイプです。一度好きになった作家は大抵嫌いになりません。最近はお気に入り作家が見つからなかったのですが、ついに出会ったのがドン・ウィンズロウでした。この人の力の抜き加減とその抜きどころは最高。アクションシーンであろうが、シリアスな会話であろうが、セックスシーンであろうが、なんかどうも真剣になりきれない感じがすごくいいです。コーエン兄弟の「赤ちゃん泥棒」のアクションシーン*1が好きな人にはおすすめです。僕が「あぁこの人の物語を絶対確実に好きだ」とはっきり自覚したのは、この作品の主人公ティム・カーニーの生い立ちを説明する冒頭部分の文章でした。

ティムは、カリフォルニア州の掃き溜めの街、デザートホットスプリングで育った、というか、育ちそこなった。

『ボビーZの気怠く優雅な人生』

いや、いいですねぇ。「デザートホットスプリングで育った、というか、育ちそこなった」なんかニヤリとしてしまいます。日常生活でも使いたいのですが、なかなか難しいですね。他にも随所にちょっと力を抜いたかっこいい表現があって、どのページを開いてもわくわくします。

肌があってるなぁと感じる物語は、読んでいる間「今小説を読んでいる」という感覚がとても希薄になります。そのせいで声を出して笑ったり、思わず突っ込んだりして。いやぁ、楽しいです。そこが電車の中でさえなければ……。ニール・ケアリーシリーズや、『カリフォルニアの炎』とは違った読後感なので、ドン・ウィンズロウ好きなのに未読な方には、是非是非読んで欲しいです。

現在日本で入手ドン・ウィンズロウの作品は、は残すところ『歓喜の島』のみになりました。翻訳者が違うのがちょっと気になりますが、どうでしょうね。東江一紀さんの訳がとてもしっくりきているのでちょっと不安です。

それにしてもニール・ケアリーシリーズの『高く孤独な道を行け』の続きはどうなっているのでしょうか?『カリフォルニアの炎』の訳者あとがきに「必ず近いうちに翻訳刊行いたしますんで、今しばらくお待ちください」と書いてるんですが。初版が「平成13年9月25日」とありますので、もうすぐ3年ですね…

「東江一紀はニール・ケアリーシリーズ最新刊を翻訳した、というか、翻訳しそこなった」

てなことになってないよう、心から祈っています。そして、刊行される日を心待ちにしています。

1. やけに低い天井の部屋で拳を振り上げるもんだから、「とどめ!」ってときに激しくこすってしまってトドメを刺せないってな感じだったと思います。

2004年08月30日(月)

読書 /

Text by pushman