狼なんかこわくない
「庄司薫くん」のエッセイ

薫くんシリーズは4作で終わりですが、庄司薫さんは3冊のエッセイを出版されています。『狼なんかこわくない』は2番目に出されたエッセイで、自伝的なエッセイと、「若者」「青春」という薫くんシリーズの大きなテーマに対する詳細な考察と、そこにいたる過程が書かれています。

といったものの、これはほとんど薫くんシリーズの続編のような仕上がりになっています。表紙をめくると、いきなり「若々しさのまっただ中で犬死にしないための方法序説」なんて書いてあって、薫くんシリーズを読んでいると当然ニヤニヤしちゃうわけです。おまけに、「ほんとのこと」を書くことの難しさを語り、あることないこと、いや、時にはないことないことをしゃべったり書いたりするのが、かけ値無しに三度のご飯より好きなのだと言ったりして、このエッセイ全体にうっすらと膜を張っている気がします。
「こんなにいろいろ書いているけれど、ほんとかどうかは知らないよ」ってなもんです。ですので、これは庄司薫=福田章二が書いたエッセイではなく、作中の庄司薫くんが、自伝的小説として『赤頭巾ちゃん気をつけて』を書いて、それが芥川賞を受賞しちゃって、取材やらでいろいろオタオタして、自伝的小説作品の薫くんシリーズを書いている途中のエッセイ、のような気がしてしまうのです。あーややこしい。

『狼なんかこわくない』文庫本

僕は個人的に書評があまり好きではないのですが、その理由の一つは、さもわかったように「ここはこうこうこういう意味です」と決めつけていたり、妙な推理をしてみたり、つまり物語の読み方を強制しようとしているものが苦手なのです。というか受け付けないんですね。そういう意味で、この作品は先ほど述べたように二重に作者のエッセイぽく、しかも相当猛烈詳細に作品を解説してくれているわけで、「これはいけない、断固として物語は読み手と同じ数だけあるはずだ」と感じざるをえませんでした。

だからといって、このエッセイがおもしろくなかったかといえば、そんなことは全然なくて、物語中の薫くんに共感している人は、このエッセイも気に入ると思います。だから僕はすごく気に入っているのです。これはちょっと相当ややこしいのですが、作品を事細かに解説されたことへの哀しさみたいなものもありつつ、その思想背景とでもいうべきものを少しでも垣間見ることができた嬉しさ、みたいなものもあるですね。これを読んでからそれぞれの作品を読み直すと、やっぱりより深く刺さります。特に『赤頭巾ちゃん気をつけて』の「翌日読んでもらいたいささやかなあとがき」を書いた時の心境なんかを読むと、改めて僕はこの物語に心底マイッテしまったことがわかりますし、そのこと自体がまた嬉しいんです。
薫くん、あるいは庄司薫が「ついていた」ように、僕も「とてもとってもついていたんだ」なぁ、と。赤の他人の思い出話にそういう感覚を持てることは、なかなか気持ちのいい体験です。

こんな感じでひどく昔のエッセイを、いちいちややこしく考えて読んで、改めてやっぱり好きな作家だなぁ、と心から思えました。「鼻持ちならない」ところはあるにせよ(笑)、薫くんはとても真剣に「人生という兵学校」の先輩、あるいは友人として、全ての時代の新兵達のことを真剣に考えていたんだ、と思います。

狼なんかこわくない

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読書

Text by pushman