ONE ZERO NINE
『東京大学物語』が好きならば……
江川達也初の本格野球漫画『ONE ZERO NINE』。地区大会決勝の9回裏は感動しました。嘘です。すみません。全然野球漫画ではありません。でもたしか、そのようなコピーがあった時期もあったような気がします。実際は、超中学級の不良少年が一人の人間として生きていくまでを描いた物語です。
第1巻からしばらくは、「とてつもなくケンカが強い二人の中学生が、野球を通じて更生していく」といった感じで物語が進んでいくのですが、ある時、まったく関係のないシーンが出てきます。江川達也作品を読んだことがなければさっぱり意味がわかりませんが、いくつかの作品、特に『GOLDEN BOY』を読んでいる人には明らかな「予告編」がそこには込められています。僕はそのシーンを見て、この物語を買い続けようと思いました。それまでは、所有しなくてもいいかな、と思っていたのですが。
というのも、基本的にこの物語、おもしろくなくはないんですが、のめり込まないんです。結構納得できるセリフは多いんですけどね。レイジに「練る」大事さを教えるエロじじいの話は、結構大事なことだと思いますし。いろんな意味で(笑)。……思い出してみると、僕は決してのめり込んでいなかったわけではないようです。でもなんというか、この物語からなにか関連商品が販売されたとしても、絶対に欲しくならないですね。
基本的にネタバレを書く事はしたくないんですが、4巻の表紙に江川達也さんがこの物語を書いた理由が書かれています。そうです、この物語は『GOLDEN BOY』の続編なんですね。純粋な続編ではないですが、ちゃんと錦ちゃんも登場します。あいかわらず錦ちゃんは放浪しているのですが、ある人物に多大な影響を与えた男として登場します。こういう展開って、嫌いじゃないです。というか好きです。それでもやっぱり、この物語には強烈な吸引力がありません。だからこそこういう仕掛けが用意されたのかもしれませんが。この仕掛けがないと、とっとと古本屋に持っていくかマーケットプレイスに出品していたことでしょう。
ただ、いくら「仕掛け」で楽しめても、物語自体の力が無いと、のめり込むことはありません。「意識的であれ」という江川作品共通のテーマを、この作品で実践しているのかもしれませんね。