極夜行
偉大な探検なのに笑える文章

角幡さんの存在を知ったのは、早稲田大学探検部の先輩である高野秀行さんとの対談本『地図のない場所で眠りたい』。要所要所でかっこいい発言をする角幡さんに、「ズルい」と悔しがる高野さんが、角幡さんの(文章の)魅力をあとがきで語られていた。
高野さんのあとがきには、僕が感じた角幡さんの(人柄と文章の)魅力がほぼ語られていたが、『極夜行』には高野さんが書かれなかった魅力もあった。

『極夜行』

見た目の印象からか、角幡さんはシュッとしてカッチリした文章を書くと思い込んでいたので、ちょっと読みにくいかもしれないと警戒していたが、そんなことは全然なくて大変読みやすかった。

極夜という想像できるようでできない過酷な状況の中、橇を引いてくれる大切なパートナーである犬のウヤミリック相手に、「なにしてんねん!」とつっこまざるをえないアホなことをしていたり、自分の心象風景を文章に置き換えてしまう職業病がもたらす自己憐憫のサイクルなど、他人が見たら滑稽に見えることをおもしろおかしく伝えてくれている。
読者のことを考え、真剣な描写の合間の息抜きとして笑いのポイントを作ってくれたのかもしれないが、「緊張と緩和」という笑いのお手本になっている。おかげで何回も笑いを堪える羽目になったし、何回かは堪え損ねて笑いながら読むことになった。

僕は昨年から狩猟を始めたのだが、狩猟を通して体験することは、とても新鮮で楽しくてワクワクする。現在の日常生活で役に立たなくても、知りたいと思うことがたくさんある。
きっかけは「自分で食べるものを自分で手に入れてみたい」というシンプルなものだが、その根っこは角幡さんの言う「脱システム」と繋がっているような気がする。
僕がやっている狩猟は角幡さんの言う「脱システム」とまでは言えないし、せいぜい「脱日常」という程度。でも、いずれは狩猟をすることが、「脱日常」ではなくて「日常の一部」になるようにしたいと思っている。

こうした気持ちの変化のせいか、本物の太陽や本物の月を見たかったと思い極夜を旅した角幡さんの気持ちは、わりとすっと理解できた。
でも、『極夜行』を読んでも、極夜の陰鬱さや、極夜明けの恍惚感は想像できない。できるわけがないと思う。でも、角幡さんがどんなことを体験し、なにを考えたり感じたりしたのかは、とてもよくわかる。角幡さんの心の動きやいろんな思索の過程は心揺さぶられるし、笑わせてもらった。
こんな偉大な探検を成し遂げた人が、体験したことを(ちょっと下品な)ユーモアを交えた文章にしてくれる人であるというのは、ちょっと相当猛烈幸運なことだと思う。

読書

Text by pushman

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