ヘテロセクシャル
哀しさを軽くする方法と、それで得られるもの

他の岡崎京子さんの作品と同様、様々な形の個人の幸福を描いた4つの短編と、いくつかの短い散文からなる物語です。Amazonの解説では、短編小説となっていますが、後書きではっきりと小説ではないと断っていますので、まあなんというか散文なんでしょう。

リアルタイムで岡崎さんの作品に触れていたわけではないので、どの時期からかはっきりわかりませんが、なぜこんなに一定以上のレベルの物語があるんでしょう。初めて『リバーズ・エッジ』を読んでから一気に読んでいるので、余計にそう思うのかもしれませんが、すごいテンションの作品ばかりです。読んだ後、必ずはっとさせられるのです。新たななにかが芽生えるというよりも、ずっとぼんやりと考えていたこと、感じていたことをはっきりと意識させられるます。

『ヘテロセクシャル』表紙

この短編集で一番はっとさせられたのは、『それいゆ』です。変化を望まずひたすら真面目に働くことを生きがいとする千香子は、「良いこと」が起こることを望まず、与えられた仕事をこなし、家族の世話をきちんとして、自分のしたいことを犠牲にしています。それで不幸せなわけではなく、「忙しい」ということを言い訳にして、頑張らないと手に入れられない「幸福」を求めることを放棄しています。そして、「幸福」が手に入らなかったときの哀しさから逃げているのです。
でも、ずっと逃げ続ける生き方を選ぶとしても、自分の幸せとはちゃんと向き合わなければならないことに、千香子は気がつきます。そうしたことに思いを馳せるシーンは、もうほんとに鳥肌が立つ見事な見開き1ページ。これだけでもこの物語を読んだ価値があると思います。

ヘテロセクシャル

パラパラとめくっていると、ついつい読みふけってしまうことが多いです。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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