ヘテロセクシャル
哀しさを軽くする方法と、それで得られるもの

他の岡崎京子さんの作品と同様、様々な形の個人の幸福を描いた4つの短編と、いくつかの短い散文からなる物語です。Amazonの解説では、短編小説となっていますが、後書きではっきりと小説ではないと断っていますので、まあなんというか散文なんでしょう。

リアルタイムで岡崎さんの作品に触れていたわけではないので、どの時期からかはっきりわかりませんが、なぜこんなに一定以上のレベルの物語があるんでしょう。初めて『リバーズ・エッジ』を読んでから、一気に読んでいるので余計にそう思うのかもしれませんが、すごいテンションの作品ばかりです。読んだ後、必ずはっとさせられるのです。新たななにかが芽生えるというか、ぼんやりとでも考えていたこと、感じていたことをはっきりと意識させられるのです。

例えば、1つ目の「うまくいってる?」では、切実に「幸福な結婚をして、幸福な家庭をつくって、幸福になる」ことを目標にしているハルエという女性が主人公なのですが、いざ結婚を目前にして、今まで自分が信じていたものを大きく揺さぶられ困惑します。「それいゆ」では、家族の世話に大忙しで、何も望まず真面目に働く千香子が、自分を犠牲にして、いったい誰のために頑張っていたのかわからなくなります。その他の作品も、自分が信じてやっていること、やってきたことを見つめ直さなければいけない局面に立ちます。

千香子は「いいこと」が起こることを望まず、与えられた仕事をこなし、家族の世話をきちんとして、自分のしたいことを犠牲にしています。それで不幸せなわけではなく、「忙しい」ということを言い訳にして頑張らないと手に入れることのできない「幸福」を求めることを放棄しています。そして、「幸福」が手に入らなかったときの哀しさから、無意識に逃げているのです。でも、ずっと逃げられるものではなく、ちゃんと向き合わなければならないことだと千香子は気がつきます。そうして千香子が思いを馳せるシーンは、もうほんとに鳥肌が立つ見事な見開き1ページ。これだけでもこの物語を読んだ価値があると思います。

やりたいことをできなかった時に、「忙しくてできなかった」とかやらなかった理由を探すよりも、「やってみたけどできなかった」と言えるように行動したいものです。

2004年12月25日(土)

読書 /

Text by pushman