アンダーグラウンド
忘れなくても許すことはできる

物語はナチスの侵攻を受けるユーゴスラビアで始まり、その後の冷戦、そしてユーゴスラビア紛争の三章で構成されています。
一章は監督独特の笑いが随所にちりばめられ、登場人物たちが置かれている状況の悲惨さとのギャップがすごかったです。
二章はタイトルが「冷戦」ということもあり、悲惨な戦闘行為こそありませんが状況はまだまだ過酷、そしてシュールになっています。
終盤にはいると状況は激変。でも、悲惨さはその度合いを増し、笑えそうなシーンであっても笑えなくなっています。

3時間近い作品ですが、冒頭からハイテンションで、眠気なんて感じる事なくずっと物語を楽しむ事ができました。

『アンダーグラウンド』チラシ

とにかく終始悲惨な物語です。でも、物語の構成と音楽のおかげで、観ている間はそんなに悲惨さを感じることはありません。とにかく楽しくて、ずっとワクワク感を持ったまま物語に没頭していました。なにより力強く感じ続けたのは、「今自分は凄い物語を観ているんだ」という感覚でした。
こうして自分の感じたことを文章に起こしていると、現実的な事や非現実的な事、歴史的な事実と作り話などを混ぜこぜにして物語を作り上げ、笑いと感動とカタルシスを感じさせ、そして世界に向けてとてもシンプルで大切なメッセージを伝えるなんて、改めて畏怖の念を覚えます。
Wikipediaによると、作品が作られた背景から公開後にさまざまな解釈を生み、批判も少なくなかったそうです。その批判の多くは監督にとってかなりきつく、また意図したこととは的外れだったようで、引退宣言を出す原因になったそうです。

史実を元にした物語を描く場合、当事者やその近くに居る人々から批判が出るのは避けられないと思いますが、僕はユーゴスラビア人ではないし、その歴史にも明るくないので純粋に、客観的に物語を観ていました。そして楽しむ事ができました。僕のような立場からすると、この物語はユーゴスラビアで起きた問題へのメッセージではなく、世界中の大きかったり小さかったりする争いの数々に対する、一つの解決方法を提示している様に思えました。

許そう。だが忘れないぞ。

『アンダーグラウンド』

これはある登場人物の台詞です。そして、いろんな国や人がそう覚悟を決め、実行してきたことです。世界には解決が非常に困難な問題が山積されていますが、これらの問題の解決方法の根本は、「許そう。だが忘れないぞ」という姿勢からしか見つけられないし、実現できないのではないかと思います。

言葉にするのは簡単ですが、実行するのは相当猛烈に困難なことです。でも、そもそもの問題が相当猛烈ややこしいのですから、その解決方法も相当猛烈困難で当然だとも思います。
だからこそ、この考えを実行して解決できたときに、この物語と同じような素晴らしい宴とカタルシスを得ることができるのではないかと思います……というか、そうであって欲しいです。

ってな感じで、珍しく僕を大真面目にさせてくれた、とても楽しくて、美しくて、素晴らしい物語です。

映画

Text by pushman