お熱いのがお好き
軽く楽しめる深い物語

何度も何度も観た作品ですが、数年ぶりに、そして初めて劇場で観ることができました。マリリン・モンローのかわいさや、ジャック・レモンの軽妙な話芸など、観ていてひたすら楽しい作品ですが、今回初めて楽しめた要素に「音楽」がありました。

10年程前の僕は「ジャズ」という言葉の響きに憧れつつも、いまいちその良さがわかりませんでした。今のようにYouTubeでいろんな音楽を手軽に聴けなかった時代なので、村上春樹作品で紹介されているミュージシャンのCDを買ったり借りたりして片っ端から聴きましたが、どうも耳に馴染まない。例外的に楽しめるのは、好きな映画のサントラに収録されている曲ばかり。それだって曲が気に入ったというよりも、その曲がかかっているシーンを鮮明に思い出せる事が嬉しく、曲そのものを楽しんでいた訳ではなかったです。その後なぜか突然ウクレレに興味を持ち、ギターに憧れ、意味不明な各種楽器を蒐集し、古い時代の楽しい音楽を愛でるようになったので、今回は劇中の音楽や演奏シーンも楽しみにしていたのですが、予想以上に好きな曲ばかりで嬉しかったです。

『お熱いのがお好き』DVDと『ビリー・ワイルダー DVD COLLECTION BOX』

まず、ジェリーとジョーの初登場シーンでは「Sweet Georgia Brown」が演奏されています。まあ二人は演奏そっちのけで喋っているんですけどね(笑)。
なんのかんのあって潜り込んだバンドのマネージャーの名前が「スー」なんですが、自己紹介で「I’m Sweet Sue.」と言ったりしてました。これは実際ニヤリとしてしまいましたね。もちろんこのバンドは「Sweet Sue」で最後を締めます。
移動中の列車内で行われるリハーサルでは「Running Wild」が演奏されています。この時シュガーがウクレレを演奏しながら歌うのですが、管楽器だらけのバンドにウクレレ1本入れる理由がさっぱりわかりません。実際まったくウクレレの音は聴こえません。まあでも、マリリン・モンローが演奏するなら管楽器よりもウクレレかなって気もしますけどね。

嬉しかったのは曲だけではく、演奏に関する知識ですね。ダフネ(ジェリーが女装した姿)に興味津々の大富豪オズグッド3世は、ダフネに猛烈にアタックしますが、ダフネは激しく拒絶します。当たり前ですね、お互いに男なんですから。なんとかダフネの気を引こうと、オズグッド3世はどのようなスタイルでベースを演奏するのかダフネに尋ねます。

オズグッド3世:きみは弓も使う? それとも指だけかい?

ダフネ:ひっぱたくだけよ!

『お熱いのがお好き』

たしかこんな感じで訳されていたと思います。最後の「ひっぱたくだけよ!」という言い方はただ強く拒絶しているだけに聞こえますが、原文は「Most of the time I slap it!」と言ってるんですね。「スラップ」という演奏方法を知らなければ字幕通りにしか理解できませんが、知っているとニヤリとできます。
こんな感じで、以前より音楽への愛着があった分、今までよりも楽しめました。歳を重ねてまめ知識が増えていくと、若い頃にはわからなかったおかしみや喜びが増えますね。まあ若い頃にものを知らなさすぎたとも言えますが。

しかしビリー・ワイルダー作品は終わり方がほんとに素晴らしいですね。今みたいにだらだらとしたエンドロールがないことも少しは影響しているような気がしますが、短くシンプルなのに心に残る台詞で、深い余韻もたせつつ物語をスパッと終わらせてくれます。特にこの物語のラストを締めくくる台詞は、おかしなこと、鬱陶しいこと、めんどくさいこと、信じられないこと、信じたくないことなどなど、しんどいことが増えて来ている昨今において、ふっと力を抜ける言葉だと思います。

お熱いのがお好き

この時代のビリー・ワイルダー作品は、いつだって安心して楽しむことができます。

撮影中のカラー写真らしいです。しかしマリリン・モンローってほんときれいでかわいいですね。

参考サイト

スラップ奏法 – Wikipedia

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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