5×2 ふたりの5つの分かれ路
希望がない二人に訪れる希望に満ちたラストシーン

ちょっと前なんですが、オゾンの新作『5×2 ふたりの5つの分かれ路』を観てきました。物語自体はまあ現実にもよくある話だと思うのですが、現在から過去へとさかのぼっていく構成に魅かれました。が、公式サイト見ると、それには元ネタがあるそうです。僕はその元ネタの事はまったく知らないのですが、一部では「二番煎じ」なんて言われてます。そんなこと知らなかった僕は、すんなりと物語に入っていくことができました。

『5×2 ふたりの5つの分かれ路』チラシ

僕はフランス映画を観ていると眠たくなることが多いです。コメディは大丈夫なんですが。原因はフランス語の響きではないかと推察しているのですが、まあとにかくフランス映画とは相性が良くないと感じています。
とはいえ好きな作品はいくつかあって、特に『死刑台のエレベーター』『地下鉄のザジ』は大好きです。なので当然ルイ・マル監督が大好きで、フランソワ・オゾンはそれ以来初めて好きになったフランスの映画監督です。

冒頭にも書きましたが、物語自体はとても分かりやすいです。二人の男女が出会って、恋をして、いろいろあって、最後に結ばれる。これって多くの恋愛映画で幾度となく描かれたことです。多くの人が経験することですし、いくら語っても語り尽くせないものです。そこで交わされる会話や心の葛藤に僕らは共感したり、はっと気づかされたりするわけです。

そんな多くの物語はハッピーエンドを迎えるわけですが、本当に重要なのはこの先です。結ばれた二人が、どうやってこれから共に生きていくのか。多くの映画はそこんところは割愛してますよね。名作『卒業』しかり。この物語のラストの二人の複雑な表情に、何かを感じ取った人も多いことでしょう。しかしこの映画では、その後の嫌な、もっとも面倒くさい場面から始まり、お互いがお互いを疎んじるようになったり、小さな裏切りをするところを淡々と描きます。はっきりいって、熱々カップルで観る様な映画ではありません。

僕はこの物語で特に感動したわけではないですが、いろんなことを考えさせられました。主人公の二人は時として不可解な行動に走るわけですが、僕らだって振り返ってみれば常日頃不可解な行動をして他人を傷つけてる事も多いわけで、しかも多少なりとも行動することによってもたらされる結果をわかってやっちゃうことがあります。ありませんか? 僕はあります(笑)。いや、笑ってる場合じゃないな。とにかく、ある瞬間を心地よく過ごすためだったり、必ず遭遇しなければならない苦痛なんかを先送りするために、周囲の人にまで苦痛を与えたりね。

はぁ……。

とまあこんな具合に、人をへこませる映画ですが、ラストは素晴らしいです。「エピソードごとに異なる様式の映画にしたかった」と監督は発言されてますが、そう言われれば確かに雰囲気は違っていました。特にラストは幸福なエピソードということもあり、とても開放的な雰囲気で、なぜだか希望に満ちあふれているように見えます。2人はその行く先を知らないから当然かもしれませんが、結末を知っているはずの観ている側にも希望を感じさせるのはすごいなと思いました。

そして、ほんとのラスト。海辺で二人が語らい、海に入っていくシーンへの展開は素晴らしいです。使い古された手法かもしれませんが「ニヤリ」とするのは間違いありません。心地いい感動はありませんが、いい余韻を残してくれます。

ふたりの5つの分かれ路

誰かと一緒に観るのなら、その誰かとの関係をよく考えてから観た方がいいと思います。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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