あのひとと語った素敵な日本語
言葉から生き方を想像する

僕がタイトルを見ただけで絶対に買わない本の、たった二つのルールを完全に満たしている本です。ひとつは「あのひと…って誰?」と思わして、とりあえずパラパラとページをめくらせようとするちょっといやらしいタイトル。本屋さんで見かけたらまず絶対に手に取ろうとしません。完全無視です。だって悔しいじゃないですか。「思惑通りにはならんぞ!」と意味なく力んでしまいます。それともうひとつ。僕は「○○な日本語」と言ったような類いの日本語賛歌本もなぜだか好きに慣れません。なので今でも僕の本棚にこの本があるのは、ちょっと奇妙な感じがします。

ではなぜ買ったのかというと、Amazonのおすすめに颯爽と登場していたからなんです。なんでこんな本が僕へのおすすめになったのか、ムッとしながらも気になったので紹介ページを見てみると…なるほどなるほど。「あのひと」だったんですね。もちろん Amazon の紹介では「あのひと」が誰か明かされていませんが、レビューにはっきりと書かれています。いいのかな? 確かに「あのひと」の旦那さんの作品、エッセイを熟読し、現在無期限休止中のホームページの隅々までチェックした人には、あっという間に誰かわかる内容になっています。でもはっきりと書かれてはいないので、もしかしたら違ったりしてね。ちなみにそんなベストセラー作家の作品なんて読んだことない、という人には「あのひと」が誰かは全然わからないと思います。まあでも、誰だかわからなくてもわりと興味深いお話が展開されているので、読み終ったらそんなことはどうでもいいことだと思うのではないでしょうか。

いきなりタイトルにいちゃもんをつけましたが、もう一言。これ、素敵な日本語を語っているといえば語ってますが、はっきりいってただの対談です。もちろん雑談ではなくて、日本語をテーマに置いていますが、その日本語について語っているのではなく、その言葉から導かれる生き方を考えるという感じなんですね。だから、日本語の語感のすばらしさとか、奥ゆかしさ、なんてものを求めてこの本を買っちゃうと頭の上ではてなマークが点滅することでしょう。……なんて偉そうに解説してしまいましたが、前書きにちゃんと「結局雑談になっています」と書いてましたよ。すみません。

さてさて、文句ばかり書き連ねましたが、おもしろくなくはないです。ほんとに。「あのひと」が誰かわかる人はもちろんですが、わからない人でも。たぶん。わりと極端な生き方というか、自分がしたいことをはっきりと自覚して、人生における様々な選択肢を他人に委ねない生き方をしてきた人が、「素敵な日本語」ではなく「素敵な生き方」を語っているといった感じでしょうか。……ちょっと違うかな。「わたしの生き方」かな。「あのひとが語ったわたしの生き方」なんてタイトルだと誰も買わなさそうですが。「お前だれやねん!」とつっこまずにはいられません。まあとにかく、言葉がもつ意味や、受ける印象から話を広げていって「わたしはこう生きてきましたよ」ということを語っているわけです。後半になるとテーマははっきり「人生相談」となっています。

「子ども」「夫婦の危機」というテーマが、「あのひと」独特の考え方が一番伝わります。僕はどっちかというと「あのひと」よりの考え方をしていると思うのですが、それをはっきりと口にするのはなかなか気合いがいる事だと思います。なぜなら僕は、そんなことを口にしたことがないから。

「想像力の欠如」というテーマでは興味深いことを指摘されています。

想像力がないのもそうなんだけど、もし気が付くと、それが自分にとって負担になったりするから、気が付きたくない、んだと思う。視えないこと、ないこと、にしちゃう。

あのひとと語った素敵な日本語

「……」となってしまったのは僕ですが、たしかにこうしちゃってますね、多くのことを。気が付いたとしても言い訳はいくらでもできるし。想像力の欠如と無関心を装う心が「なーんかヤな時代だなぁ」と思わせているかもしれません。でもねぇ、気が付いても動けないこともまた多いですよねぇ…動けないから気が付かないフリを続けて、知らない間に気が付けなくなり想像力が失われていくんでしょうか。なんか今ぎりぎり瀬戸際な時代だなとふと思うのですが、ちょいと気合いを入れて動かないといけないですね。

後書きに「あのひと」が誰かわかる、決定的な発言が収録されているのですが、この言葉はほんとに大事な事だと思います。自己表現がこんなにも認められて、簡単に実現できる時代ですが、そろそろ本当の自己表現ってどういうことかちょっと考えてみる必要があると思います。この感想からもわかるように、タイトルから受ける印象とは大きく外れた読後感を残してくれます。そして、ろくに感想を書けない理由を、なにかのせいにしてごまかそうとしている自分に気が付つくこともできます。

2006年03月25日(土)

読書

Text by pushman