バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
信じ抜けば生み出せる

それほど強く観たいと思っていた作品ではなかったのでなんとなく劇場に足を運んだのですが、ここ数年で一番スクリーンに引き込まれた物語です。とはいえラストシーンでもやもやしたのも事実。誰かにこの物語の感想を聞かれたら、手放しで絶賛したあとにちょっとだけケチをつけ、それでもやっぱりこの物語は大好きです、ということになると思います。

かつての大ヒット作品『バードマン』の主演俳優リーガンは、落ちぶれた人生から抜け出すため自らの脚本、演出、主演で舞台を製作することを決意。しかし癖のある共演者や反抗期の娘、映画人を毛嫌いする批評家など、周囲はトラブルに満ちています。そして彼の心にあるトラブルも日増しに大きくなり、自分自身と創り出す物語に影響を与えていきます。

ドラマとファンタジーとコメディの中間、ややドラマよりかな……というところに位置する物語に仕上がっているのですが、実際に声を出して笑うようなシーンはあまりありません。「おもしろい」というより「おかしい」という感じでしょうか。始まって数分でなぜか緊張している自分を感じたのですが、その原因は映画自体をワンショットで撮影したかのようなカメラワークと編集。これに気がつくか気がつかないか、凄いと思うか凄いと思わないかで、この作品の評価は全然違ってくると思います。

もちろん撮影、編集の技法だけで素晴らしい映画ができるわけではありません。プレッシャーに押しつぶされそうになり徐々に心を病んでいくリーガンの心象風景描写は演技も演出も素晴らしいです。実際に行動こそしませんが、プレッシャーや不満に押しつぶされそうになると、誰しもこういうイメージを心に抱くのではないでしょうか。

破天荒な天才役者マイクを演じるエドワード・ノートンも素晴らしい。全てを芝居に捧げている破滅的な男ですが、同じはみ出し者であるリーガンの娘とのふれあいで見えてくる心底の部分は、普通の人間と変わりないことが伝わります。

そして、薬物依存からリハビリ中のリーガンの娘を演じるエマ・ストーン。ちょっと大きすぎやしないかと思える目と口なのに、めちゃくちゃかわいい。その顔立ちのアンバランスさと豊かな表情からは、大人になる前の誰もが感じる漠然とした不安感を正しく表現していると思います。

この主演の3人はもちろん、脇役の面々もとても魅力的でとにかく魅入ってしまいます。彼らの芝居が素晴らしいので当然と言えば当然なのかもしれませんが、芝居を捉えるカメラワークが観客をより物語に引き込ませているのは間違いありません。手持ちカメラによる撮影は、見ている人がその場にいるような感覚を持ちやすいと言われています。それが延々と続き、かつ途切れることなく長回しになっているので、スクリーン上の物語が目の前で展開されているようでした。自分が劇中で製作されている舞台の使えないスタッフになってしまったような感覚にもなりました。自分は無関係ではない。それなのに口出しもできず傍観者にしかなれない。観ている間に覚えた緊張感は滅多に味わえないもので、その心のざわつきはなかなか消えてくれませんでした。

最初にも書いたように、ラストをすんなり受け入れることはちょっとできません。悪くはないですが、最良でもない。「もうちょっとなんとかできたのではないかな……」という感覚が残ります。そこはちょっと残念ですが、観ている間、そして終わってからもずっと残っていた緊張感が、「欠点はあるけど、この映画はすごいんですよ」と誰かに言いたくなる根拠です。予告編の最初の40秒は、この物語とワンショット撮影の効果がよくわかるので、予告編を観て「ん?」と思わない人は、この物語をあまり好きにならないかもしれません。「ん?」と思った人は間違いなくこの作品に引き込まれると思います。好きか嫌いかは、また別のお話ですが。

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

公式サイト

映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』オフィシャルサイト

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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