巻狩で出会った6頭の鹿
中った理由、外した理由

初めて巻狩に参加した前期は、待ち場に着いてからなにをどうすればいいのかチンプンカンプンだった。今期は待ち場を観察して、どこからどんな感じで獲物が出てくるかを想像して準備することができた。先輩猟師と一緒に山を歩いたり、罠猟に同行させてもらったおかげだ。
想像が正しかったのかは微妙だけど、今期は6頭の鹿に発砲して、4頭を仕留めることができた。前期は鹿が現れても撃てないことが多かったし、撃っても中らなかった。今期は撃たなかったことはあっても撃てなかったことはないし、2頭を外した理由は自分の中はっきりしている。

仕留めた鹿の運搬
仕留めた鹿を運搬中。獲るための準備も大変だけど、肉体的には獲ってからの方が大変。

山でのルールを学ぶ

1頭目と出会った待ち場は深く広い谷で、下を見て左の尾根との傾斜は緩く、右の尾根との傾斜はそれなりにきつい。獲物は左の尾根から出てくるはずなので、右の尾根を上って途中の木に身を隠して待つ。

目だけを動かして全体をゆっくり見渡していると、視界の端に違和感。視線を向けると、いつの間にか1頭の雌鹿がゆっくりと歩いていた。立ち止まったりしながら、のんびりとこちらに近づいてくる。距離は20m前後。

途中の雑木に鹿が隠れたタイミングで銃を構え、再び姿を表した鹿の頭に狙いを定める。でも、真正面から顔を撃つのか……撃てるのか?と、少しの間、逡巡した。

意を決して引き金を引くと、鹿は足を踏み外したようにバランスを崩し、不自然な足取りで谷を駆け降りて行く。その間にこちらはボルトを引いて排莢、装填し二の矢をかけた。今度は伏せたような体勢でうずくまる。再び立ち上がったけれどうまく走れないようで、かなり痛々しい。追いかけて止め矢を撃ち、もう動かなくなった鹿を確認すると、右前足と左後足が折れていた。こんな細い脚によく中ったなと驚いたし、狙った所と全然違う所に中っていることにがっかり。どうも無意識に顔を撃つことを避けたみたいだ。

鹿は撃たれるまでこちらに気がついていないようだった。冬山の中で見る鹿の色は、薄暗い周囲の景色と同化していて、そこに視線を向けた時に鹿が動いていなければ気がつかなかったと思う。山の中では、動いた方が負けなのだ。

山に同化して見つけにくい鹿
撃たなかった鹿の1頭。銃口の左下の枝の間にいる。走っている途中だし動画からの切り抜きなので実際の視界より見つけづらい。
上の画像はこの動画の4秒ぐらい。動いていれば簡単に見つかる。(無音の動画です)

獲る理由と狙う場所

追われている獲物が尾根を越える時、鞍部(尾根の窪んでいる場所)を通るらしい。2頭目と出会った場所は、「尾根を越えるにはここを通るしかないな」と思われる鞍部。尾根の両斜面にはその鞍部と同じぐらいの高さに道がついている。これが鞍部を越えるための道だろう。斜面を少し下りながらトラバースして鞍部の直前から上っていくはずなので、そこでスピードは落ちるはず。そこを狙う。

しばらくすると斜面から、「ザッ、ザッ、ザッ」と走るというよりも跳ねるという感じの音が聞こえてきた。雄鹿だ。想定している道を通ってくるなら、尾根を越える時に身体は真横を向く。距離は15m程度。雑木林の中から雄鹿が姿を現す。据銃してスコープに捉える。頭を狙って引き金を引く。

2頭目の待ち場
右の雑木林の中から左の鞍部を超えて行くと考え、その通りに出てきた。画像の中央付近に来た時に引き金を引いた。

鹿は尾根の手前で崩れ落ち、立ちあがろうとともがいている。止め矢を撃とうとしてMSS-20の排莢に失敗。薬莢を取り出すのにもたついているうちに、雄鹿は立ち上がってふらつきながら尾根を越えていった。

倒れた場所を確認すると血痕がある。でも、出血量は少ないので、あまりいい所には中ってなさそう。不安になりながら後を追うと、尾根から20m程降ったところで雄鹿が息絶えていた。弾が中ったのは背中の真ん中で、大事な背ロースは台無し。

撃った時の記憶を辿ると、小さな頭を狙っていたはずの銃口は撃つ直前に大きな的(身体)に向いていたような気がする。非情になって頭を狙ったつもりだったけれど、外したくない気持ちが強くて大きな的を狙ってしまったようだ。背ロースだけではなく、肋が折れて内臓を破って至る所に血が回っていたり、かなりの部分を無駄にしてしまった。この失敗以来、結果はどうあれ可食部へのダメージが少ない部位を狙った方がいいと、強く思うようになった。

獲物に対する姿勢

3頭目と出会った待ち場は長くて深く、開けた谷。左右の尾根は雑木林で、谷との高低差も緩やか。いくつも道ができていて、鹿も自由に移動しているようだ。できるだけ高い場所に上って広く見渡し、臨機応変に対応できるように立ちっぱなしで待つ。

3頭目の待ち場
写真で見ると木の間を狙う気にはならないけれど、実際はもうちょっと間隔がある。

犬の鳴き声が聴こえることもなく、静かな山の時間が続く。それでも違和感を見逃さないように視線は常に動かし続ける。しばらくすると、下の方で何かが動いたように見えた。1頭目の鹿と同じように地面に鼻をつけながら、ゆっくりと歩いている雌鹿だった。距離は50〜60m。

スコープを最大の6倍に上げて、鹿を狙う。1頭目の時も思ったけれど、ゆっくり動いている獲物はしっかりと狙えるので自分の身体のブレが気になる。そのせいで逆に狙いを定められない。ちらちらと木に隠れるので、次に木から出てきたタイミングで撃つことにして、狙いを定める。鹿の顔、前足と少しずつ姿を現す。引き金を引くと、スコープの視界からあっという間に鹿が消えて、左の雑木林に消えていった。

猟場で50mを超える射撃は初めてだった。想像以上に難しい。この距離で狙うと一発勝負になるので、膝射や座射にするか、身体を木に委託するなどして、もっと安定した姿勢を取る努力をするべきだった。

スキート練習の成果

4頭目と出会ったのは周囲一面雑木の尾根。獲物は尾根の少し下の雑木林を駆けて行く。前期もここで何度か疾走する鹿と遭遇したけれど、雑木林に阻まれて一度も撃てなかった。それを踏まえ、今回は射線の確保を最優先にして周辺を観察し、「ここしか無い」と言える場所で待つ。

雑木林で撃つのは難しいけれど、獲物が通る道は想像しやすい。その道を通ってきても撃てるのは一瞬しかないので、できるだけ近い距離で待ち、じっと動かず、息を殺して、その道を通ってくることを祈る。

雑木林の待ち場
ここで待つ度に「……どこで撃てばええんや」と軽く絶望する。

犬の鳴き声が近づいてきて、ガサガサと枯れ葉を踏み鳴らす足音が聴こえてくる。足跡が大きくなったと思った時には鹿の姿が見えていた。鹿の頭をクレーに見立てて据銃し、レティクルの中央に捉える。撃つと決めていた場所までしっかり狙ってから引き金を引くと、鹿は失速して転げ落ち、木にぶつかって止まった。もうピクリとも動いていない。弾は目の下あたりに中っていた。

今期3頭目の獲物は理想的なクリーンキル。可食部へのダメージもない。動的射撃の代わりになるかもしれないと考えてスキートの練習を続けて良かったと、心の底から思えた。

惑い銃

5頭目との出会いは、低山の緩やかで大きな鞍部を超えて20m程下った杉林。見通しは悪く無いけれど、開けているとまでは言えない状態。獲物は山頂から尾根を走ってきて右から降りてくるか、尾根の裾をぐるっと回って正面からくるかのどちらか。出てくる方向は同じで、高さが変わる。どちらの場合も通るであろうと思えた道が2つあったので、どちらも同じぐらいの距離で狙える場所で待つ。

犬が鹿を起こした場所が近く、ここに来るとしたらあまり時間が無い。木の影から伺っていると、足音が聞こえてきた。足音は賑やかで、複数頭がこちらに向かっていることがわかった。

1頭が姿を見せたので据銃動作に入った瞬間、後続の3頭の姿も視界に入る。全部で4頭。目は先頭の動きを追おうとしているけれど、思考が4頭に分散され無意識で大きさを比べたり、狙いやすいのはどれかを考えてしまう。

「迷ったらアカン!」と言い聞かせて先頭の1頭を狙って引き金を引いた。それでも意識は迷ったまま。こんな状態で手応えを感じる訳もなく、案の定4頭は隊列も乱さず走り抜けて行った。二の矢を撃つこともできない。この間ほんの数秒。色んなことを考える時間はあったのに、しっかりと狙う余裕を持てなかった。次からは目の前に何頭現れようが、最初に現れた獲物を狙うと決めた。

今期の集大成

6頭目は4頭目と同じ雑木の中の尾根。当然同じ場所で待つ。前回のクリーンキルの記憶が自信とプレッシャーをないまぜにして、どちらかと言えば獲物が来ないことを願いながら待っていた。

願いも虚しく前回同様に犬の鳴き声が近づいてくる。ガサガサと枯れ葉を踏み鳴らす足音が聴こえてきて、獲物が来ることを確信。前回より少しだけ早く、雑木林の中を駆けてくる鹿を視認。今回は2頭。躊躇せず先頭の鹿に狙いを定め、前回同様クリーンキルに成功。そして、初めてGoProでの撮影に成功。

今までもGoProを持って行っていたのに、めんどくさくなって装備しなかったり、録画ボタンを押し忘れていた。そのため録画した動画のほとんどは変化に乏しい山の映像のみ。今回はめんどくさがらずちゃんと装備して、録画ボタンも押した。今期のために準備した色々なことが結実した1頭だった。

獲ったのか? 獲れたのか?

巻狩で自分の前に獲物が出てきてくれるかは、ほとんど運だ(と思う)。その幸運をものにするためには、それなりの準備が必要だ。射撃練習、待ち場での状況判断、そして、どう待つか。他にも細かい準備、工夫はあると思う。そうしたことがバチッとはまれば、「獲れた」ではなく「獲った」と自信を持って言えるだろう。

でも、どれだけ準備がバッチリはまっても、それをひっくるめて運が良かっただけだという気もする。自分で撮影した動画を見る度に、よくまあ狙ったところに中ったなと、他人事のように驚いてしまう。『ゴールデンカムイ』によると、アイヌの猟師は獲物が獲れると「獲物が矢に中りにきてくれた」と考えるそうだ。準備が結果に結びついた喜びを何度も噛み締めているうちに、僕もほとんどそういう気持ちになっていた。その変化に少し驚いたし、ちょっと嬉しい気もする。

Text by pushman

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