ミッチェル300のオーバーホール
分解して改めてわかる、かっこよさ

オークションで購入したミッチェル300はそのまま使うには忍びない、期待通りの痛み具合だった。いくつかのネジは錆びが浮いている。ベールとラインガイドは触るとわかる程度のざらつきがあるし、ところどころメッキが剥がれている。カバーを外すと中は古くなったグリスが固まっている。ギアはグリスだかオイルだかよくわからないものと、微小な鉄粉がまざった黒い汚れが付着している。

普通であればがっかりすることがたくさんあるけれど、ある意味では望んでいたことなのでがっかりしない。むしろ、少し嬉しい。

ミッチェル300分解直後
スプールを取り外すと中に砂のようなものがたくさん入っていた。ギアの周囲もグリスや砂や鉄粉でじゃりじゃりしている。

ほとんどの部品は取り外しに工具が不要なので、分解作業は簡単でてきぱき進んで楽しい。ある程度の段階に分けて写真を撮っておくつもりだったのに、あまりに簡単なので気がつけばほとんど分解し終わっていた。ワッシャーなど細かいパーツがどこで使用されていたか不安。まあでもなんとかなるだろう……と思える構造なので、勢いでとことんバラバラにして歯ブラシで汚れを落とす。それなりに丁寧に使われていたのか、汚れも簡単に取れた。目に見える成果が大変気持ちいい。

ミッチェル300全パーツ
可能な限り分解したパーツを綺麗に清掃して記念撮影。ここまでバラバラにするのに使用した工具は、大小のマイナスドライバー2本、ソケットレンチ、ピンセット。ゼブゴ33Tほどではないけれど、最新のリールと比べれば部品点数はかなり少ない(はず)。

古い時代のミッチェルのリールは足が長くて太く分厚いため、現在のほとんどのロッドに装着できない。少しもったいない気がしたけれど使うために買ったので、思い切ってレガリスLT2000S-XHとほぼ同じサイズまで削った。これで持っている全てのロッドに装着できる。

ミッチェル300のリールフットを削る前と後
左上のみ加工前。上はレガリスの足。まず長さをレガリスに合わせる。次に下を削って全体的に薄くする。最後に上から先細り、かつ丸みを持たせた形状に整えてさらに薄くした。このために買ったルーターのおかげで作業は快適。手作業でここまで削るのはさすがにしんどいと思う(無理ではない)。

エアブラシで削りカスや細かいゴミを落として、可動箇所は細かい紙やすりで仕上げ、この日のために購入したルーターでバフ掛けもしておいた。そしていよいよ再組み立て。
そもそも部品数が少ないのでなにがどこに使われているかはあまり迷わなかったけれど、部品の向きがわからないものがいくつかあった。でも、その部品の役割を考えるとどうやって組み立てればいいのか見えてくる。
ベールを反転させない仕組み、その時に音が鳴る仕組み、スプールを往復させる仕組みなどなど、ハンドルの回転を別の動きに変換する仕組み全てが単純で、理に適っていて、つくづく感心してしまう。

仕上げにシマノのグリスDG06をギアや可動箇所に塗りたくる。ハンドルを回してなじませて、また塗りたくる……という感じで、少量ずつたっぷり使っていくうちに、ギアのごろつきがなくなっていくのがハンドルから伝わってくる。気持ちいい。相変わらず音は鳴るけれど、それはこのリールの味のひとつだし心地良いので問題ない。
最後に削った足や塗装が剥げている箇所を、タッチアップペンのつや消しブラックで塗って作業終了。見違えるほどではないけれど、かなりきれいになったし、動きがスムーズになった。

ミッチェル300 - ラインガイド
使用に一番影響がありそうだったベールとラインガイドもヤスリ掛けしてバフ掛けしてピッカピカ。多分、問題なく使えるはず。

高価なものでも数年で買い替えを検討する時代に、40〜50年前の工業製品を自分の手でオーバーホールできたのはちょっとした感動だった。いい物を作れば売れると信じることができた、そして実際に売れた時代の道具だから、こういうことを楽しめるのかもしれない。最近のリールと比べて特に優れた機能はないかもしれないけれど、必要最低限の機能はあるし、これで十分な性能があるはずだ。昔はみんなこれでちゃんと釣っていたのだから。

多少の不便さなんて気にならないかっこいい造形だし、使いにくいことがかっこいいと思えてくる。ストッパーをフリーにして、魚を引き寄せる時だけオンにするなんて、めちゃくちゃかっこいい(もちろんちゃんと取り込めたら)。

外見や使い方のかっこよさだけでなく、簡単に分解できて気軽に内部を確認できる優れたメンテナンス性も、ミッチェル300の大きな魅力だとオーバーホールしてよくわかった。観察すれば動く仕組みも理解できるし、ちょっとした不具合なら自分でなんとかできそうな気もする。そうやってずっと使い続けていきたいと思える、存在自体がとてもかっこいい道具だ。

ミッチェル300とトラウトツアーズ 562UL
オーバーホールが済んだミッチェル300を、格安だけどグリップがいい雰囲気のロッドに装着。やっぱりこういう写真は釣った魚と一緒に撮りたい。

ミッチェル300

渓流で使うには少し大きい気がするけれど、これで釣りたいと思えるかっこいいフォルム。かなり安価で売りに出されているので、オールドリールデビューにぴったりかもしれない。

購入時の価格 ¥4,300

MITCHELL

ミッチェルのリールについて知りたいなら必読の本。Kindle Unlimited読み放題の対象書籍なので会員なら無料で読める。314に関する記述は多くないけれど、ミッチェルのリールの魅力が存分に書かれている。

購入時の価格 ¥0

アルゴファイル マイクロモーターシステム スターライトセット

ベールやラインガイドのバフ掛けと、足の整形に使用。安くはないけれど、価格以上の満足感を得られる。とても使いやすい。

購入時の価格 ¥18,800

シマノ純正サービスグリスSHIP – DG06

ミッチェルのリールを調べたことがあるなら必ず見ているであろう竹中さんがオススメしているグリスと思っていたけれど、確証は持てない。粘度が高いので、付けすぎるとアンチリバースの音が鳴らなくなったりする。ベアリングに使用すると明らかに重たくなるので、ギア部分だけに使うのが良さそう。

購入時の価格 ¥1,060

タッチアップペン つや消し黒

タッチアップペン つや消し黒’ text=’普通の黒だとテカリすぎて合わなかったけれど、このつや消しは300にぴったり。308など他のミッチェルの黒系にもおそらく合うと思う。

購入時の価格 ¥497

参考サイト

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

  • Instagram
  • YouTube
  • ANGLERS