幻獣ムベンベを追え
探検の地味さと大変さ
好きになった作家はデビュー作から順を追って読みたくなります。ということで、『ワセダ三畳青春期』ではまった高野秀行さんのデビュー作『幻獣ムベンベを追え』を読みました。
子どもの頃は超常現象や未知の生物への好奇心がそこそこ強かったので、ドキュメンタリー番組や川口浩探検隊を半信半疑で、でも真剣に見ていました。今ではたまにネットの情報を楽しむ程度。テレビやネットでは目撃談や存在する可能性についての考察を知ることができますが、この本では探検前にすべきこと、探検中に起きる様々なトラブルなど、テレビやネットでは知れなかったことがたくさん書かれています。
昔のテレビだと、未知の生物が存在する匂いをぷんぷんさせて、結局見つけられず終了。それでも重要な手掛かりは入手できたとか、次につながる終わり方をしていたように思います。決して「存在しない」とは結論付けない。しかしこの本はとても潔く、ムベンベを発見できず、そのような怪獣が存在する手掛かりも発見できなかったことを認めています。そもそもこの本では、ムベンベの「真実」を知ることが目的の全てになっています。もちろん未知の生物であることを望んでいるのですが、ムベンベが既知の生物の見間違いやただの言い伝えであったとしても、真実を知ることができればそれでいいというスタンスです。おかげで妙な煽りや決めつけもないので、うさんくささは皆無。それどころか読んでいる途中で「……こりゃムベンベいないな」とこちらが確信を持てる始末です。
というかそもそも、この探検記の素晴らしさ、おもしろさは異国の秘境を探検することの大変さの描写です。現地の役人や大学教授、村人とのやりとりもおもしろいですが、中でも食糧危機に陥ったときに食する珍獣の数々。ワニ、ヘビ、トカゲはまだしも、カワウソ、チンパンジー、ゴリラまで狩って捌いて食します。ゴリラは現地の方々に人気の食材なんだとか……。ゴリラといえば、ゴリラを保護することに尽力している大学教授が、ゴリラに襲われ返り討ちにするエピソードがおもしろかったです。射殺されてカヌーに横たわるゴリラの写真は、飲みつぶれたおっさんみたいで物哀しい……。
他にも仲間がマラリアに感染したり、機材が故障したり、大変なトラブルばかり起きているのですが、「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」というモットーの通り描写されており、終始ニヤニヤしながら読み通せました。つらいしんどい出来事を、「つらかった」「しんどかった」と伝えられるとこちらもしんどくなって絶対に体験したくないと思うものですが、高野さんが文章にすると同じ体験をしたくなるほどです。実際に体験したら絶対に根を上げるのは間違いないのですが。
この本でデビューした高野さんは今では「エンタメ系ノンフィクション作家」と評されているようです。ちょっと軽い印象を受けてしまいますが「なるほどな」とも思える肩書き。笑いながら色んな種類の事実を知ることができるので、他の作品も早く読みたいと思います。
幻獣ムベンベを追え
怪獣探しにまつわるトラブルをおもしろおかしく知ることができます。