2004-07-15 Thu

終業式|姫野カオルコ

先日、とある事情があって「ツァラトウストラはこう言った」を読もうと思い立ったのですが、数10ページであえなく断念…で、帰宅のお供を探しに古本屋へ。ぐっとくるものが一つもなく、かといって帰りの電車で妄想にふけるのもいやだったので、さっと目に入った知っている作家を選びました。それが、姫野カオルコ「終業式」でした。以前「ひと呼んでミツコ」を読んでかなり気に入っていたのですが、なかなか他の作品を読む機会がなく、今回ツァラトゥストラのおかげで読む機会を得ることが出来ました。

最初に書かれていますが、この物語の全ては登場する人々の手紙で語られます。主要な人物は高校3年生の3人。かな。色々出てきますが、基本は3人です。体育祭が終わった頃から始まるので、まあ秋ぐらいから20年後ぐらいまでのお話です。あ、名前を出すとネタばれ、とまではいきませんがいろいろ楽しみを奪いかねないので、伏せさせてもらいます。

最初の頃は誰しもやったであろう、授業中の息抜きに仲のいい友人に宛てたメモ書き程度なんですが、それが年賀状になり、手紙になり…というように、いろんな思いが込められたモノになっていきます。学校を卒業し、無事進学できた人もいれば、受験に失敗したりと、僕自身も何年か前に経験したこと、聞いたこと、言ったこと、やっちゃったこと、なんかが手紙の中に一通り出てきます。誰でも自分に近い人物を見つけられるのではないでしょうか。そして、社会をうまく泳いでいく人、溺れちまう人、なんかも当然出てきて、少しの幸せを見つけたり、多くのものを失ったりしながら、登場人物達は確実に歳を重ねていきます。それでもやっぱり…つらい事も多いし、いい事は少ないし、何かが変わって、何も変わらなくて。

そんなごく普通の人々の生々しい生活を、普通見る事の出来ない誰かへ宛てた手紙を見るという特権を読者は与えられています。中には誰にも読まれなかった手紙もあって、すこし後ろめたい気持ちになるような立場で人の一生の一部を見るというのは、やはり相当おもしろかったです。

原田宗典さんが後書を書かれているのですが、久しぶりにあってよかった解説でした。えらそうですね。まあなんていうか作品に対する愛情みたいなものだけでいいですよね、解説なんて。で、手紙(文章)を「書く」ことと、「したためる」事の違いを簡潔に書かれていて、なるほど、と思った次第です。

最近手紙なんて書きませんよね。多くの人は。でも文章を書く機会は多いと思うんですよ。メールを筆頭に。携帯電話でも使えるし、PC持ってる人はもっと頻繁にメールを書いたり読んだりしてると思います。いまさら、「手紙っていいもんですよ。メールなんてものは…」なんて事は言いませんが、メールと手紙は違いますよね。なんか。この物語を読んでいて、その違いがわかったような気がします。メールなんて気軽に出せるし、多くの人はそんなに推敲しないでしょうし、書く回数も多いですよね。それがメールがこれだけ仕事とかにも使われている理由でもあると思います。なんせ、気軽。そりゃ大事な話も書くときはありますが、姿勢を正して、なんてとことはまあ無いのではないでしょうか。

だからこんなご時世に手紙を出す場合って、なんていうかこう決意のようなものが少なからず感じられます。そんな大げさなものばかりでは無いでしょうけれど、メールもらうよりも手紙とかもらったほうが嬉しいですよね。解説にもかかれていますが、この物語も最初は軽いノリ、今なら授業中や移動中の暇つぶしメール、そんなノリの手紙をやり取りしているだけです。ですが、だんだんとお互い顔を合わせる事も難しくなってきたときから、本当の手紙のやり取りがはじまっていきます。ほんと気がつくと手紙のノリが全然違う事にちょっと驚きます。その移行がまたスムーズでいいです。登場人物達の成長度合ときちんとシンクロしています。文章が巧くなった、とかそんなことではなく、当事者以外の人、つまり読者にもきちんと気持ちが伝わってくるんですね。最初の頃の手紙に書かれている事は内輪ネタ中心、理解は出来るんですが、なんかこう斜に構えてしまうといいますか、「わかったわかった」みたいな気になってくるんですね。後半はそれが無い。相変わらず突然知らない人からの手紙も登場しますが、その人の手紙ですら気持ちが伝わってくる。うーんすごいなぁ、と思いました。

ごちゃごちゃ書いてますが、単純にとてもいい物語です。切ない部分もありますが、あくまで第三者の立場は変わらず、誤解を恐れずに言えば「感情移入」をしながら読む物語ではないので、ちょっと不思議な気持ちになりました。

で、考えたのがBlogのことです。HTMLとか知らなくても、気楽に更新出来るのがBlogの大きな特徴の一つですが、皆さん結構気を遣っているというか、丁寧に書かれていると思うんですね、かなり。だから会ったことも無い人のどうでもいい話(失礼)でも笑ったり、へぇ〜と思えるものが多いのだと思います。もちろんそんな丁寧なものばかりではないですが(そればっかりでもイヤですね)、肩凝らない程度に緊張しているという感じがします。それがすごくいいです。

そんな事言ってる僕自身も、最初は適当でいいやと思いながら、いざ投稿ボタンを押すだんになると、「ちょっと校正を…」と読み直し、削除して追加して…なんてことを延々とやっちゃいます。それでも駄文は駄文ですが、気持ちは伝わってるのかなぁ、とも思います。思いたいっす…

とまあ、この物語を読んで、文章の持つ力というのは一部の才能ある人だけにではなく普通の人々も持ち合わせているんだなぁ、と思いました。物事をいつもよりちょっと丁寧にすることで、ちょっとだけ何かが変わるかもしれませんね。

終業式 (新潮文庫)

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2004-07-15 Thu / Author - pushman / Book / Comment - 0 / TrackBack - 0

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