2004-07-05 Mon
「素晴らしい世界」を読みました。
一話完結オムニバス形式の漫画ですが、それぞれの物語がほぼ完全につながっています。それは強いつながりではなく、あくまで「お隣さんの物語」ということになっています。でも、すこしだけ影響しあっています。現実の世界と同じですね。さえないOLや、優等生の仮面をかぶった中学生、ただなんとなく予備校がよいを続ける浪人生など、いろんなタイプの人々が一瞬主人公になるわけですが、共通していることは、何かに対して迷っている人、立ち止まっている人、立ち止まってたい人、ということでしょうか。
職場の方に唐突に貸してもらい、どんな物語かもわからないので解説を求めると「これはね、全てが一つの世界なんですよ」という一言だけ与えられました。なんか宗教みたいだな、と思い、そっと引き出しに入れっぱなしにしておいたのですが、先日行きの電車で「椿姫」を読み終わったので、帰りの電車で読むことにしたのですが…やばいですよ、これも。「笑い声をあげる」とか「ビリビリして号泣する」というわけではないですが、「おぉー」っという感じで興奮してしまうんですね。で、隣の人なんかに「これ知ってます?なんかねぇ…いいんすよ。全てが一つの世界とでもいいましょうか…」と唐突に貸し付けたくなるんですね。
何に興奮するかというと、この1980年生まれの作者、浅野いにおさんにです。圧倒的な才能を感じる、とかではないんですが、むちゃくちゃうまいですね。間のとり方とか。というか、うまいとかそんなことではなく、しっかりと描きたい世界があって、それをちゃんと、しっかりと描いているんでしょうね。物語にすごく余裕というか、うーん…ゆっくりと流れる確かな時間があります。僕はいとも簡単にこの人の作品世界に引き込まれてしまいました。最近いろんな物語に引き込まれっぱなしで危ないな(笑)。
でこの人、映画や音楽好きなんだろうなぁ、と思います。一話一話のタイトルを見ていると、「くるり」とか「スーパーカー」とかが好きなようです。イーエスブックスのレビューには「中村一義」を感じるとも書かれていました。ときおり字だけのコマがあるんですが、そういうのも映画っぽいというか、あれですよ、あれ、松本大洋さんと同じような意味で、映画的な漫画ですね。あ、誤解されると困るんですが、断じて松本大洋さんの真似をしているわけではありません。
作品全体としては、いちいち厳しい現実を直視させたうえで、そんな厳しい世の中の優しい一面に気付かせるという感じです。タイトルに偽りなし、です。ほんとうに「素晴らしい世界」を描こうとしているし、それは成功しているように見えます。特に若い人たちは読むとつらいところもあると思いますが、ちょっとぐらい夢見たっていいわな、と思えるんじゃないですかね。
ただ、全ての話が平均以上なんですが、やはりムラはありますね。まあ完全に個人の好き嫌いがあるので一概にそうとも言えないかもしれませんが、少なくともとてもオリジナルな作品だなぁと思うものと、どこかで読んだことのある話、会話だなぁと思うものがあります。それでも十分おもしろいし、オリジナルなんですがね。
なんてちょっとぐらいケチをつけたくなるくらい素晴らしい作品です。ただの嫉妬ですね、これは(笑)。特に2巻からは相当引きつける物語を書いています。次作がほんとうに楽しみです。
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