2005-03-12 Sat

トニー滝谷|村上春樹

市川準監督の「トニー滝谷」を見に行く前に、原作である「トニー滝谷」が所収されている「レキシントンの幽霊」を読み直しました。

この短編集も、何度か読み直しているのですが「トニー滝谷」はタイトルのインパクトだけしか覚えていなくて、映画化されたと知ったときに「嬉しい」と思ったものの、まったく内容を思い出せませんでした。やっとのことで思い出せたのも、確か大量の服を買ってしまう女の人が出てきたなぁ、といった感じのことだけでした。おまけに「トニー滝谷」だけではなく、この「レキシントンの幽霊」に所収されている物語のほとんどを覚えていない。唯一はっきりと明確に覚えているのは「沈黙」だけで、「氷男」とか「緑色の獣」もタイトルだけしか思い出せず、自他共に認める村上春樹大好きっ子としてはちょっとだけ反省しました。「沈黙」は集団読書テキストとして 200 円ぐらいでも売られてますので未読の方はぜひ読んでください。特に、異様にめんどくさい「学校」という社会に所属している若い人は、読んでおいた方がいいと思います。

読み直してまず思ったのは、僕は今までとても無自覚というか受動的にこの物語を読んでいたのだな、ということです。興味ある話なんだけれども、友達が僕の知らない友達の話をしていて、おもしろいのだけれど何の口出しもできず、「うん」「うん」「へぇー」などとほんとにただただ聞いているだけの状態。

話がつまらないわけでもなく、興味が持てないわけでもなく、理解ができないわけでもない。ただ、自分の考えを差し込むスペースが無い。

物語を要約してみます


ずっと独りで生きてきて「孤独」を感じたことの無い、トニー滝谷。友達や恋人がいなかったわけではないが、ずっと一人で生きてきたし、これかもからもそうだろうと信じている。

ある日、とても気持ち良く服を着こなす女性と出会う。あっという間に恋に落ちて、トニー滝谷は孤独ではなくなる。孤独ではなくなったことによって、孤独を感じることになったトニー滝谷。そんな恐怖を感じるときにも、彼女はそばにいてくれる。トニー滝谷にとって人生最良の時間が流れている。でももちろん完璧なわけではない。彼女にはほとんど唯一といっていい欠点、というか問題があった。彼女は服を買いすぎる。「完璧な人間などいない」と、気にしないようにしていたトニー滝谷も、だんだん心配になってくる。お金の事ではない。家を改造してまで服を買い続ける行為を心配しない人間などいない。トニー滝谷は慎重に彼女に服を買うことを少し控えるように伝える。彼女も納得した。でも、トニー滝谷はそんなことを彼女に伝えるべきではなかった。

服を買うのを控えて 1 週間、彼女は一歩も外にでなかった。1週間たって、まだ買ったばかりで袖も通していないコートを返品しようと思い、彼女はお店に向かう。コートを返品し、信号待ちの車の中でさっき返品したコートの事ばかり考えている彼女。青信号に変わると、想いを振り切るようにアクセルを一気に踏み込む。そして、衝突音。

また、独りぼっちになってしまった、トニー滝谷。彼女の買った、大量の服や靴が残された部屋で、初めてはっきりと孤独を感じる…


要約、といいながらえらい長くなってしまった上に、話はまだ続くのですが全部書いてしまうのも問題あると思いますのでこの辺で止めておきます。ちょっと今要約に挑戦してみて初めて感じたことがあるのですが、これ、映画にしたくなりますね。「なんでトニー滝谷を?」と思っていた(見るまでは)のですが、こうして物語を自分の言葉で置き換えてみると、とてもいい物語と思えます。もともと嫌いだったわけではないのですが、改めて物語と正対してみて気付いたことがとても多いですね。ただ、市川準さんのとらえ方とはやっぱり違っている部分も多く、改めて物語は読み手の数だけあるということ、一旦作者の手を離れると、読者のものになる(村上春樹は常々こういってますが)ということがとても実感できました。って、これは映画の「トニー滝谷」の感想に書こうと思っていたのに、なんでこっちに書いているのか…まあ要約して興奮してしまったということで…まずは自分の感想を要約しろよといいたいですね、ほんと。

さて、気を取り直さず思いつくまま書いていきます。

自分の考えを差し込むスペースが無い、と書きましたが「誰だ? そんなこと書いたのは!」というのが今の心情ですね(笑)。トニー滝谷の孤独感が、少なくとも以前よりリアルに感じられます。それは今まで生きてきて、何人かの人と別れてきたからかもしれませんし、多くの人と出会ってきたからかもしれません。理由は僕にはよく分かりません。リアルに感じていると勘違いしているのかもしれません。でも、こうした自分の感想ですらとても不確かなものなんだということを感じたことも重なって、存在の不確かさ、みたいなものをとても感じます。

トニー滝谷は生まれたときから孤独でしたが、あっという間に孤独ではなくなり、あっいう間にほんとに孤独になってしまいます。そこにトニー滝谷の意志って無いんですよね。トニー滝谷はずっと自分の好きなことをしてきただけなんです。そこにふっと素敵な女性が現れて、去っていっただけなんです。それだけのことなのに、トニー滝谷はその状況には慣れてはいっても、昔のようには生きていけないんです。ほんとにたったそれだけのことで。そして当然トニー滝谷は、途方に暮れます。物語はそこで終わっています。率直に言って、とても残酷だと思います。もう少しトニー滝谷が救われてもいいんじゃないかと思ったりもします。でも、現実の世界で僕達はしばしば途方に暮れちゃいますよね。「なんとかしないと」「なんとかしてくれ」なんてことも思わず、ただただ自分を傍観している状況。絶望、ともちょっと違うと思います。そう、これこそが「孤独」というものなのかな、と思いました。

この本の記憶に残っていない他の物語も、今とは別の感じを感じられるようになるときが来るのかわかりませんが、それが孤独によってもたらされることが無いように願います。

レキシントンの幽霊 (文春文庫)

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村上 春樹

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2005-03-12 Sat by pushman - Category: Book
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