意味がなければスイングはない|村上春樹

意味がなければスイングはない|村上春樹

Author : pushman|Book|2006-01-25 Wed 12:20

以前「ポートレイト・イン・ジャズ」というジャズに絞ったエッセイがありました。文章量も少なく、気軽にパラパラと読めるとても素敵な本です。ちなみにイラストは和田誠さんで、まさに大人のための絵本といったかんじでしょうか。

意味がなければスイングはない」は、それとは違い文章量も多く、かなり専門的というか気合いの入った言葉が満載です。なにより選出している音楽人が、濃いです。少なくとも僕は「ブライアン・ウィルソン」「スタン・ゲッツ」「スガシカオ」しか聴いたことがなかったです。音楽好きの人なら知ってて当然かもしれませんが、万人が知っているとは言えないでしょうね。そういう意味で、村上春樹初の音楽エッセイと言えるのではないでしょうか。

このエッセイで何よりも楽しみにしていたのは、スガシカオに対する考察です。大体僕がスガシカオを聴いたきっかけが、春樹さんが「いい」と書いていたからです。ちなみにスタン・ゲッツもブライアン・ウィルソンも同じ理由。ですので、春樹さんのスガシカオ評は猛烈に興味を掻き立てられました。で、やはり春樹さん。わかってらっしゃる(笑)。僕が感じていたけれど伝えられなかったことを、的確に表現してくれています。

今ちょっと読み直してみたのですが、感動してしまいました。村上春樹の「スガシカオ」の伝え方に深く共鳴しています。心を揺さぶられるスガシカオの歌詞とメロディを、ゆっくりと丁寧に、心を込めて読み上げてもらい、わかりかけている問題の重要なキーを教えてもらって、自分で解くことができたような感じでしょうか。僕もスガシカオの魅力を、こんな風に伝えられたらな…と思います。

村上春樹とスガシカオの組み合わせになると、止めどなく思念が溢れてくるのでこの辺で止めますが、とにかく、スガシカオが好きな方は、是非読んでもらいたいです。

他の音楽家の批評、解説はさすがにわかりやすいとは言えませんでした。それは僕の知識不足もあります。でも初めて名前を知った人の方が多いのに、十分興味を駆り立てられます。おそらく、それは解説のおもしろさとかではなく、春樹さんの思いの強さが猛烈に伝わってくるからです。ただそれが村上春樹を特に好きではないという人にどう伝わるのか興味深いですね。

というわけで、Amazon のレビューをざっと拝読しましたが、賛否両論(笑)。まあそうでしょうね。その方が健全かと思います。やはり何かを好きになるということは、自分のなかにある種の偏見を持つことに繋がりますよね。なんで好きか、嫌いか、なんてことをいくら考察してみたところで、他人にそれを理解してもらうことは容易なことではありません。自分が認めていない人のことを誰かに薦められたりすると、その人の評価まで変わってしまうことってありますよね。春樹ファンの中にも、今回の人選は受け入れられない人も多数いるみたいです。まあ、それはしょうがない。

僕自身は相当猛烈に春樹さんの作品が好きなので、かなり偏った人間だと思います。できるだけニュートラルな姿勢で新しい作品にふれようと思ってます。それでもやっぱり、春樹さんの文章には何か特別なものを、いつも感じます。その根底には、常に「自分の伝えたい事」がしっかりとあるからなんですよね。それがなにか具体的にわかっていなくても、その事に関連する出来事はしっかりと見据えています。このエッセイでも、この人たちの音楽が素晴らしいと判断した理由はわからなくても、その基準だけははっきりとわかります。その基準を認めるか認めないか、でこのエッセイの受け取り方は随分ちがったものになるでしょうね。

一時は音楽を仕事にしていたから、もう二度と、音楽を仕事の領域に持ち込みたくない、と思っていたそうですが、結局こうして素晴らしい音楽について書きたくなり、実際に書いた。その具体的な理由はわからないとしていますが、その答はいつものように単純なことです。

月が消え、
恋人に去られ、
犬に笑われても、
なにがあろうと
音楽だけは
なくすわけには
いかない。

意味がなければスイングはない

音楽への愛と偏見に満ちた、素晴らしい文章を、多くの人に読んでもらいたいと思います。

意味がなければスイングはない

意味がなければスイングはない

村上 春樹
文藝春秋:2005/11/25
価格:¥ 1,400(定価:¥ 1,400)
ユーズド価格:¥ 800
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