2011-07-04 Mon
「アパートの鍵貸します」ぐらいの名作になると、映画を好きになったらいつか必ず見ることになる作品ですが、僕はこの作品をとある“国際ジャーナリスト”の著作で知りました。学生時代に尊敬していた友人の影響でその方のお話にどっぷり浸り、「豚は死ね!」と思って生きておりました。思い出すたび自分の厚顔無恥っぷりに赤面しつつ笑ってしまいますが、当時は大まじめでしたね。その反動か今では「豚だっていいじゃない。人間だもの」という感じでいいかげんに生きています。
その著作の中でこの物語がお薦めされていた訳ですが、初めて見たときの感想は「確かにいいけど…絶賛する程か?シャーリー・マクレーンは可愛いけど」ってな感じでした。なにしろ「豚は死ね」と思っている人間ですからジャック・レモンの様な生き方がまず理解できないし、認めたくないのです。「ちゃんと自分の仕事をしろ!そんな生き方で…シャーリ・マクレーンと……ずるいぞ!」と思いますよね。でも、どこかでジャック・レモンの生き方にも魅力を感じていた気がします。
そんな訳で好きな作品ではありましたが、その大部分はビリー・ワイルダーの演出や脚本の軽妙な雰囲気に対する感嘆の念であり、物語に深い思い入れはありませんでした。先日「午前十時の映画祭」のおかげで初めて劇場で見ることができたのですが、やはり大きなスクリーンで見ると気持ちが入り込みやすいのか、この物語をほんとに好きになりました。
しかし、それにしても出てくる男たちがほんとにひどい(笑)。上司の不倫のために自分の住まいをホテル代わりに提供するバクスター(ジャック・レモン)も情けないというか不甲斐ないですが、それを利用する上司も甲斐性無さ過ぎ。愛人を持つにはやはりそれなりのお金は必要だと思うんですよね。バクスターへの見返りは昇進させることなので、上司達の懐はまったく痛まないんです。…まったく、なんとよくできた羨ましいシステムでしょう!
そして、バクスターが恋するフラン(シャーリー・マクレーン)が惚れているシェルドレイク(フレッド・マクマレイ)が本当にひどい(笑)。最初こそ渋い雰囲気ですが、途中からは男の僕でさえ「女をなんだと思ってんのよ!」と言いたくなるような言動ばかり。フランがなんでこんな男に惚れているのかさっぱり分かりません。まあ自分で「男を見る目が無い」と言ってますので、駄目な男に惚れていることは自覚しているんでしょうけどね。
このように、男共、特にバクスターの上司達はなんか小器用に生きていて、魅かれるものがありません。バクスターは孤独を感じていますが、特に寂しがっている様子は無く、それなりに楽しく、というか楽に生きています。
鬱陶しい程のやる気しか持たなかった僕のような若造に、このような人達の生き方が心に響くことはあり得ません。でも、若造も歳とともに色々経験し、いつから「おっさん」と呼ばれるのかドキドキしながら生きるころになると、さすがに考えや感じることも変わります。
遮二無二努力をせずとも、それなりに幸せそうに生きている(様に見える)人っていますよね。昔はそんなもの断固として認めたくありませんでしたが、頑張ったら必ず報われるという世の中というのもなかなか窮屈そうです。最近はのほほんと幸せなそうに生きている人がいたらほっとするというか、なんか楽しい気分になります。もしほんとになんの努力もせず大金持ちになる人がいたら、「人生はほんとに不公平なものだなぁ!楽しいなぁ!」と、笑けます。そして納得できます。そういう人が実際に居ればいいなと思います。自分がそうなりたいとかではなくて。ただし、あまり身近ではない人の方が精神衛生上よさそうですが(笑)。
そんなわけで、今回はバクスターのお気楽な生き方をニヤニヤしながら観れた反面、フランへの思いの強さと不器用さが余計に切なくなりました。仕事の力を抜くよりも、恋愛感情の力を抜いた方がもっと楽になれるでしょうにね。
フランがシェルドレイクに恋しているのは間違いないですが、シェルドレイクにとってはただの遊びであることも間違いありません。フランに恋するバクスターはその事実を知りながら、フランと束の間の同居生活を送っている間になんとかシェルドレイクの気持ちをフランに向けさせようとし、フランにはシェルドレイクの不誠実な態度を隠し続けます。その一方でフランとの同居生活を少しでも長引かせようとします(笑)。その様は滑稽ですが、ビリー・ワイルダーの素晴らしい演出とジャック・レモンの軽妙な演技のおかげ楽しく見れます。それがまたなんとも切ないんですけどね…
その後フランとシェルドレイクはめでたく結ばれ、シェルドレイクは再びアパートの鍵を要求するのですが、バクスターは今までの生き方を覆す態度を取ります。そして、お気楽な生き方に別れを告げ、ささやかな、確かな幸福を手に入れる決意をします。人として猛烈かっこいいですが、はっきり言って自分の感情の限界に気が付くのが遅すぎです。その結果、いい歳したおっさんが家も仕事も失って、お先真っ暗です。とてもじゃないですが、明るい未来が待っているとは言えない状況です。でも、自分自身の幸せの大切さに気が付いたおかげで、相当猛烈素晴らしいものを失わずに済むことになります。
手放しに「良かったねぇ」とはとても言えない状況ですが、最悪ではない。そして、これから何か楽しいことたくさんが待っているに違いない、という予感に満ちた絶妙なエンディングは、公平だったり不公平だったりいろいろある人生の真理を、正しく表現していると思います。
¥ 1,890 (定価)
¥ 1,485 (Amazon価格)
なし (Amazonポイント)
(Amazonおすすめ度)
在庫あり。(価格・在庫状況は2月23日 10:12現在)
« Old 2010-11-28
天使の涙|ウォン・カーウァイ
2011-07-15 New »
さや侍|松本人志