2013-03-19 Tue

マチをオモウ気持ち

2013年2月22日から24日まで全国13カ所で開催されている、「my home town わたしのマチオモイ帖」という展覧会。クリエイターが自分の生まれ育った町や、学生時代を過ごした町など、それぞれの“オモイ”を冊子や映像として表現されています。

僕は特別な思い入れのある町や地域はありません。いろいろな思い出がある場所はもちろんいくつかありますが、その思い出は“誰”かとの思い出で、その“場所”というものは最終的には思い出の芯の部分に関係が無い、と感じているので、場所への想いは皆無に近いと思います。

でも…と思う訳です。この展覧会に足を運び、いろんなオモイの詰まった作品を見ていると。

知ってる人と、知らない人。知ってる町と、知らない町。いろんな作品を拝見しましたが、僕の心に残ったマチオモイ帖は、まったく知らない町について書かれたものばかりでした。

鶴町帖

鶴町帖

“町へのプロポーズ”として作られた「鶴町帖」。作者の町を想う気持ちと、町と作者のルーツを訪ねる構成が絶妙で、読みものとしてかなりおもしろいです。表紙もかっこいい。

八田西町帖

八田西町帖

簡単に言葉にしづらいであろう家族の出来事を綴られた「八田西町帖」。町への想いと家族への想いが絶妙な軽さで綴られています。明るく楽しい出来事では無いのですが、その文体のおかげでさらっと読めてしまいます。
町で一緒に過ごした友人や知人、そして家族との繋がりが羨ましくなります。そして最後に、「羨ましいな」「いいな」と感じた人へのメッセージが丁寧に語られています。
最近花粉症がひどいせいで、目から何かが滲んで困りました。

ホリエ帖

ホリエ帖

お子さんへの“フルサト作り”の一環として作られた「ホリエ帖」。この作品はこどもが繰り返し読んでもボロボロにならないように、全ページ布で作られています。すごい。
浅はかな僕は、装丁とタイトルにだけ注目し、「かわいい」「お洒落」的な作品だと決めつけ若干斜に構えてページを開いたのですが…母なる優しさというか、暑苦しくない程度に包容された優しさが素晴らしいです。この作品を贈られたお子さんが、この作品の優しさを再認識する時のことを思うと、たまらない気持ちになります。

南春日丘帖

南春日丘帖

13歳のころに全てを置き去りにした町を想う気持ちが綴られた「南春日丘帖」。本を屋根に見立てた展示方法が素晴らしいのですが、読む前と後でその印象が一変します。
町と家族を想う気持ちが短い文章に込められているのですが、人が成長していく過程で避けて通れない、普遍的な哀しさが書かれているような気がしました。「物語」と言ってしまうと失礼かもしれませんが、僕にとってこの作品は上質の物語を読んだのと同じような心の動きがありました。
こみ上げるものを租借しつつ作品を屋根に戻すと、最初に見た「へぇー」っという感心とかではなく、この家への想いみたいなものを想像してしまい、しばらくぼけーっと眺め続けるしかありませんでした。そして、おそらく絶対に花粉症のせいなんですが、不覚にも目からなにかがこぼれ落ちそうになりました。

村上春樹が「ニュークリア・エイジ」を初めて読んだ時に「とにかく誰かとこの作品について語りたくなった」そうですが、「南春日丘帖」をはじめいくつかの「マチオモイ帖」は、僕に同じような気持ちを抱かせてくれました。とにかく、これら作品のことを誰かに伝えたくなったのです。思いのほか知り合いが少なく不完全燃焼になったので、「『マチオモイ帖』オモイブログ」を書いてみました。

町に対して特別な思い入れがない僕みたいな人はたくさん居ると思いますが、誰かのことを想わない人はいないでしょう。この展覧会が各地で開催され、大きな反響を呼んでいるのは、「マチオモイ帖」公式サイトに書かれているように、3月11日の震災をきっかけに「しっかりと地に足をつけて生きていきたい」と、改めて自分達の根源的な願いに気が付いた人が増えているからなんだと思います。

地元や暮らしてきた町のことを普段なんとも想っていなくても、「なにか思い入れってあったけ?」と考えているうちに、忘れてしまっていた小さな出来事や、大切な人を思い出すきっかけとなります。思い出したことは楽しい事やつらい事だったりしますが、それは今の自分を見つめ直すきっかけにもなりますね。見た人に「自分もなにかしなければ」と焦らせるのではなく、「…なにかできるのでは?」「なにかやってみようかな…?」「なにかやりたいなぁ」と穏やかで前向きな気持ちにさせてくれる、素晴らしい展覧会だと思います。

もちろんこんな風に“あったかい”作品だけではなく、美しい映像や写真、そして思わず吹き出してしまうおもしろい作品もたくさんあります。すでに終了してしまった地域もありますが、大阪では3月24日まで開催されています。ご興味を持った方は是非足を運んでみてください。

2013-03-19 Tue / Category - Column

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