幸福の鐘
語らない主人公の素朴な幸福

久しぶりに映画館に行って「幸福の鐘」を観てきました。いつものSABU作品とはキャストからして違うので、どれだけ変化しているか期待半分、不安半分でした。でも、やはりSABU監督は本物なんだ、ということを確信できる作品に仕上がっていました。

主人公の五十嵐はほとんど言葉を発せず、通り過ぎる人の語りかけをただただ受け止めます。そしてその言葉を抱え込み、自分の幸福について考えることになります。あるきっかけで、自分の幸福を見いだす五十嵐。そして向かう先にある幸福はとてもとても素朴なものです。

『幸福の鐘』チラシ、パンフレット、ポストカード
左がチラシ、右上がポストカード、右下がパンフレット。チラシは少しメタリックな仕上がりでかっこいいです。ポストカードのイラストはSABU監督。

とても感動させたり、やる気にさせてくれる映画はたくさんありますが、そう思わせることはそんなに難しいことではないと思います。多く人が死ねば悲しいし、愛する人を命を懸けて守っている人がいれば応援したくもなるし、その二人が結ばれればこんなに嬉しいことはありません。男前が窮地に立たされ、高い知能をフル回転させて問題を解決するのは気持ちがいいものです。退屈しないし、おもしろい。
でも、そんな英雄的な行動を起こせる機会は、僕たちの日常にはほとんどありません。それでも日々いろいろ悩んだりしてるわけです。また、日常の中のささやかな幸福が無ければ、僕たちはおそらく生きていくことはできないでしょう。この物語はそういう日常を描いて、その大事さをしっかりと伝えてくれます。

SABU監督の今までの作品、特に「アンラッキー・モンキー」以降は、「何も考えずに観て最後に考える」という感じでしたが、その考えさせられる部分がいささか説教くさかったり、スケールの大きいものになっていたように思います。それはそれで素晴らしいと思いますが、今回の考えさせられる部分は本当に普遍的な、「個人の幸福」についてです。物語ができて以来語られてきたであろうこのテーマを、どんなジャンルにも当てはまらない作品に仕上げて、そして楽しませてくれました。
「映画館を出たとき、観た人がちょっとだけ何かを考えるような映画を撮りたい」というSABU監督。この物語は、確かにそういう物語に仕上がっています。

幸福の鐘

物語が終わると「おもしろかった」と思いながら、ぼんやりなにかを考えることになると思います。

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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