PLAYBOY日本版2006年05月号
ウディ・アレンはなぜ美女に愛されるのか?

なんだか大変好評なウディ・アレンの次回作「マッチポイント」。日本公開は今秋予定だそうですが、なぜかこの時期にPLAYBOYがウディ・アレン特集をしてくれてます。「総力特集」というだけあって、結構な紙面が割かれ、最新インタビューなんかも掲載されています。

冒頭に「最も引用される作家、ウディ・アレン」と題して池澤夏樹が文章を寄せています。ウディ・アレン自身も自分の好きな作家や映画からの引用が多いですが、もちろんオリジナルの気の利いた言葉も多いんですよね。そういったジョークを池澤夏樹がいろいろ解説してくれています。しかしほんとに含蓄のあるジョークが多いですね。笑ったあとに知的な気分になれるお得なジョークは少々嫌みったらしいですが、やはりそういう言葉は一つの本質を見る目がないと口にできませんからね。

他にもいろいろとおもしろい記事があるのですが、やはり一番興味深く読めたのは「ウディ・アレン自身がすべてを語る」インタビューです。現在の奥さんスンイをめぐる一大スキャンダルに自分の映画や黒沢映画、アカデミー賞欠席の理由などなど。以前も何度か語っていたこともありますが、今回はちょっとつっこんだところまで語っているような感じを受けます。まあそんなにインタビューとかチェックしてないのであくまで雰囲気ですけれど。

『PLAYBOY』2006年5月号

興味深い発言がいろいろありますが、スンイとの関係を「人の心は心が望むものを求めるものだ」というのはいろいろ考えてしまいますね。それは確かに真実だし否定できることではないと思うのですが、それを手に入れるか、または手に入れるために行動を起こすか、というのはまた別問題だと思うのです。まして養女とはいえ自分の娘と恋愛関係になったことをそのように弁解されてもちょっと困るといいますか…でも、やっぱりそうとしか答えられないですよね。全ての物事を説明できるわけではないし、説明しようと突き詰めていくと「自分が何を望んでそうしたか」ということになるのですから。僕は基本的に、自分が幸せにならないと周りの人間を幸せにできない、と思っていますが、自分の幸せは他人の不幸があればこそ、というのもまた事実かなと思います。そう思えば、多少の不幸は他人の幸せ、と思えるかも。まあそんなこと思って優しい気持ちになったところで、不幸は不幸なんですけどね(笑)。

まあとにかく、ウディ・アレンは自分の幸せというか生き方をとても真剣に考えて大事にしているんだな、と思いました。映画からうける不安にさいなまれた挙動不審な男のイメージを本人に投影してしまいがちですが、相当マッチョな人なんですね。

そして胸が熱くなった、というのは大袈裟ですが、相当嬉しく思ったのがアカデミー賞を欠席したことを批判する人々への反論です。

あの頃は授賞式が月曜日の夜だったんだ。でも月曜日の夕方はいつも私は仲間のジャズバンドと一緒にクラリネットを演奏することになっていてね。あの頃の私はとにかくそれが楽しみだったんだ。

〜中略〜

つまり、急に自分の演奏をキャンセルするのも、カリフォルニアまで移動するのもご免だったんだ。この件についてずいぶんと批判した人もいたけど、でもね、私は賞を取るために映画の脚本を書いているわけじゃないんだよ。

PLAYBOY日本版2006年5月号

わかりやすくて、そうあるべきで、とてもかっこいい姿勢だと思います。

自分の考えていることを他人に伝えるという作業は、もうほとんど不可能に近い作業だと思いますが、まれにうまくいくことがあります。それはなんというかとても幸運な出来事です。自分の力もあるし、相手の力もある。タイミングや場所もあるでしょう。とにかく、そういった様々な要素がかちっとはまって幸運なことが起きる。いい物語というのは、そういうことを起こそうと力むことなく、それに成功した物語なんだと思います。最近のウディ・アレンは、確かに迷走していたと思いますが、それでも僕がつまらないと思えなかった理由は、その無意識に魅かれているからなのかもしれません。

PLAYBOY 日本版 2006年05月号

What’s so bad about feeling good?

Update:

Text by pushman

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